休日の過ごし方〜その1〜
晴れ渡る空には、柔らかそうな雲に輝く太陽、吹き抜ける風は心地よくて、ああなんて気持ちのいい天気。
そんな空をぼんやりと見上げて、ため息をついた。
ちくしょう、なんでこんなにいい天気なんだ。
「勿体ない……」
こんな日が休日だなんて、いっそ最悪だ。
なんでこんな日までも、この人は仕事にかじりついているのか。
じっとりした視線を横に向ければ視界に入る、華奢だが、この上なく頼りがいのある背中。
白髪を小さく揺らしながら、一心不乱に筆を進めるその人は、文机に向かいながらも、私が恨みがましい視線を己に向けていることに気付くらしい。
「なんだ」
低められた声が、投げられる。
「べーつにー、天気がいいなぁーと思っただけですよー隊長」
「拗ねてんのか」
「拗ねてませんよ」
拗ねてんじゃねぇか、と呟きが返ってくるだけだが、それだけだ。
ええ、拗ねてますよ。拗ねてますとも! そう思うならちょっと構ってくれたらいいじゃないの…!
なのに小さな隊長さんは、この休日に自室で仕事をすることを選ぶらしい。
理由としてはこのまま行くと来週、残業祭になりかねないからだそうだが、いい加減松本副隊長どうにかならないのか。
いつもは立っている銀髪が今は下ろされていて、開けられた障子戸から吹き込んでくる風に、下を向いて柔かく揺れている。
髪を下ろしてるとやっぱり子供っぽさが出るが、逆にふと伏し目がちになった瞬間なんかに、大人びた横顔にはっとしたりする。
その書類に浴びせられる翡翠の瞳は、今朝から数える程もこちらに向けられていない。
私達の関係を表すなら、上司部下以上、恋人未満。
自分でもずいぶん微妙なポジションだと思う。
部屋に上がり込んでも自然に受け入れてもらえるが、構ってもらえない。まさに現状が関係を顕著に表している。嬉しくない。
もてあそんでいた湯飲みを畳に置いて、ハイハイ歩きで隊長の横まで近付く。
墨を含んだ筆はサラサラと紙を滑っていき、淡々と仕事はこなされていく。
おもしろくない。
なのにそんな私に、あろうことか隊長は、淡泊な口調で言ってくれた。
「副隊長以上しか見れない書類だ、あっち向いてろ」
「……………」
笑えない。
怒ればいいのか、泣けばいいのか。
四つん這いの姿勢のまま硬直した私に、動く気配のないのを知ってこちらを向いた隊長は、ひとつため息をついて空いた片手を伸ばしてきた。
「見るなっつってんだ」
ぐい、と無遠慮に下げられた頭がたどりついた先は、あぐらをかいた隊長の足の上。
そのまま頭から手がのけられる様子もなかったから、隊長を枕に上を見上げる。
あいも変わらず隊長は筆を動かしていて、翡翠はまたそちらに縫いとめられている。
白い髪が目元や頬に掛かっているのが新鮮で見つめていれば、新しい書類と入れ変える時に目が合った。
「暇そうだな」
「暇なんですもん」
呆れたような視線が上から降ってくる。
かと思えば、その翡翠が急降下してきて、顔に降りかかったのは思ったよりかたい銀髪と、それと真逆に柔らかい薄い唇。
むさぼるように大きくはむそれは、頭を押さえたままの左手と同じ位無遠慮だ。
おかげで私はいっぱいいっぱいで色んなものが受け止めきれない。
熱を押し付けるように、熱を奪うように、最後には名残惜し気に唇を唇で辿って、分かれる。
ほんのわずかな距離浮いた隊長の顔に、一瞬ひどく間近で視線が交じる。
熱に浮かされたような瞳は、思いがけず幼さを宿していて、私の中を僅かな嗜虐心みたいなものが過ぎったような気さえした。
少年らしいすべすべした肌に手を滑らせて、細い首に抱き着いて、白い髪に指を埋めたら、彼の顔は私の首元に埋められた。
それが先程のキスとはまた真逆に、まるで子猫が温もりを求めて埋めてくるようなそんな仕種で、よもやこの隊長相手に、かわいいなんて思う日が来ようとは思わなかった。
首筋にかかる細い吐息がくすぐったい。
小さく笑ってしまった私を、二本の腕がきゅっと私の体をしめて抗議した。
。.。.。.。.。.。.。
ここんとこスランプでした管理人です。
甘いの書きたいながらどうしていいやら分からないながら、久しぶりにまともなキス話書きました。
ご注文、ひざ枕か添い寝の甘々だったのに、またリクエストを横切るような内容になってしま……い…
すみませっ…orz
090713
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