4.



「あ………」



思わずもれた、声。

聞こえるような距離ではないはずだが、二枚の窓ガラス越しに紫が振り返って、これだけ離れても色褪せて見えることのない赤が、私を捉えた。



でもいつも彼が身にまとうもので目に鮮やかなのは、色だけ。
彼自身は、やっぱり霧を透かしたような淡さと儚さに包まれていて、向けられる視線の半分は私を通り抜けて行くような感覚を覚えるのだ。



私は暗示を掛けられたかのように彼から視線を外すさないまま廊下を進み、やがて一分もしない内には、彼の前に立っていた。



「こんにちは」

「……ああ」

「お加減はどうですか?」

「ナースみたいなことを聞くんだな」



ため息混じりに彼はそう言ったが、特に機嫌を損ねた様子もなく、悪くはない、と答えてくれた。


しかしそれから少し沈黙が流れ、庭を見つめる青年に、私は馬鹿みたいにその場に棒立ちになっていた。


さすがに気まずさを覚えそうになった時、意外にも口を開いたのは彼の方だった。



「梶田 陽………だったか」

「え………」



彼が発した台詞が、思いがけずも自分の名前で、ポカンと呆ける。

なんで知ってるの?
という疑問がそのまま顔に出ていたのだろう。

彼は下から横目で私を見上げると、なんでもないことのように言い放った。



「……この間、君が僕の部屋に落としていった。領収書と薬の詳細が書かれた薬のノートのような物を」

「………あっ!」



すぐさま慌ててかばんの中を確認してみれば、確かに無い、お薬手帳。

一応スポーツやってる人間だから、なんの薬をどれだけ服用したかを書くようにと、命令を下したのは所属する硬式テニス部の顧問だった。

とはいっても私は、普段からあまり風邪も引かないし怪我もしない。
その存在すら薄かったので、完全に忘れ去っていた。



「ごめんね、どこにある?」

「………部屋だが」

「………ですよね」



低い声で答えた彼に、私もつられてトーンの落ちた声で返した。



「分かった、私これから診察だから終わったら取りに行く。構わない?」

「あぁ…別に」

「じゃあ、後で」



片手を上げて踵を返したが、ふと立ち止まって振り返った。



「名前……貴方の名前は?」

「………ティエリア・アーデ」

「えーっと、ティエリアの方が名前?」



無言の肯定に、口の中で今一度復唱して、



「じゃあ、後で」



やっぱり日本の人じゃなかったのかと、彼の人並み外れた美貌に細く息を吐いた。

















.。.。.。.。.。.。.

キャラがなんかまだ定まらない\(^O^)/

お薬手帳、使ってみた^^
日記読んで下さった方は分かるかと思いますが、完璧引用です←


090208


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