3.



少しだけ草丈の伸びた気がする病院の庭は、しかし夏の気配などまだ無くて、春の花が満面に景色を彩っていた。


初診から五日後。
二回目の治療の為、再び病院を訪れた私は、前回と同じ学校のジャージ姿にスポーツバックとテニスラケットを抱えて病院内を歩いていた。

体は重い。


休日ながら部活があって、朝から動きっぱなしだった。
特に最近は技術よりも体力指導が多くて、ハードにも程がある。

そのうち別の理由で病院に来ることになりそうだと、心の中で毒づいた。



引きずるように足を動かし、外科の病棟までやってきてふと顔を上げた。

奥の病棟への通り道になっている小さなホールにはあまり人影もなく、それは先日と変わらない。
ただ、ストレッチャーを押す看護婦と、車椅子の青年もいないだけだ。



まあいるわけもないのだが、と再びのろのろと歩みを進めて、外科の区画を抜ける。


紫と赤という、はっきりした色を持ちながらも、どこか淡いような印象を受けたあの青年。

見た目なら藤の花みたいだけど、印象としては露草だったな、なんて取り留めもなく思う。



「いや、スミレか…?」



ぽつりと呟いて足を止め、ヒントを得るためガラスの壁が続く廊下の外の中庭を見やれば、はすむかいの廊下に紫の花を乗せた車椅子が止まっていた。



滑るように、視線がこちらを向いた。






(瞳の色は薔薇か椿か)






090206


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