10.
毎日来い、とお許しをいただいたので、私は本当に日参していた。
からかい半分というのもあったが、実際ティエリアくんの病室は居心地がよかったし、顔を出す度、呆れた表情で見てくる彼も、なんだかんだ横に居ることを許してくれるので、遊びに行くことを楽しみにしている。
とはいえ、この短い春休みも私は部活が入っているわけで。
歯医者の日以外は夕暮れ時に訪れることになり、長くは居られない。
だからこの日、歯医者でもないのに珍しくも三時過ぎという早い時間に顔を見せた私に、ティエリアくんは呆れ顔ではなく、素直な少年ぽい不思議顔で出迎えた。
普段が毒舌ツンツンなだけに、たまに見せる、この純粋無垢なところに私は弱い。
「今日は早いな」
「土曜だから、部活が早く終わるのさ。はい、本」
毎日来るようになってから、二冊ずつ持ってくるようになったそれを手渡し、我が物顔でベッドに倒れ込む。
「邪魔だ」
「椅子に座るのもしんどいのー。今日は卒業生来ててしごかれて、そりゃあもう……」
地獄絵図だったの、と言ってもそっぽ向かれる。
ああ、純粋無垢タイムは終了かい……。
「桜もうそろそろだなぁ。明日位が見頃?」
「あんなにある蕾が、一日やそこらで開くとは思えないが?」
「桜はねー、七分咲きが一番綺麗と言われてるのさー」
ふふん、と得意げに鼻を鳴らしたが、一瞥されただけだった。
ホント愛想ってもんがないな。
せっかく綺麗な顔してるのを、有効利用すればいいものを。
あーあ、微笑むとかさ、なんかさー。
じっと顔を見られていることに気付いて、ティエリアくんはじろりとこちらを睨んだ。
……どうにかならんのか。
白いシーツの上にごろりと身を横たえて、天井を仰いだ。
「今日はどういうルートで散歩に行こうかー…」
習慣でそう、いつもの話題を口にしたが、私の記憶はそれきり途切れた。
不意に視界が開けたように、ぱちりと世界が戻ってきた時、私はしばらくの間、訳がわからなかった。
「あれ………」
思わず口からこぼれた自分の声は、妙に低く掠れていた。
それを耳にして、ああ寝ていたのだと知る。
無意識に詰めていた息を胸から吐き出せば、体が深くベッドに沈んだ。
ゆっくりと包み込むような、柔らかな布団。すごく心地がいい、………
そこまで考えて、はっと我に返った。
私の布団はこんなに柔らかくもないし、触り心地も暖かさも段違いだ、残念ながら。
そこではじめて目が覚めたように、はっきり覚醒した。
辺りは緩やかな闇。
自分の部屋だと、窓のすぐ外に街灯があって電気を点けなくても結構明るいから、この暗さはいっそ新鮮だった。
車やバイクの通る音も、夜中うろついてる若者の変にテンションの高い話し声も、近所のいつ寝てるのか分からないお爺ちゃん家のデカいテレビの音もしない。
まるで世界から人間がいなくなったのかと思う位、静かで緩やかな夜の空気だった。
顔を上げた先に、カーテンの閉まっていない窓から少し欠けた月が見えて、辺りが完全な暗闇でない理由を知る。
まるで本の中にいるみたいだと思った。
体にかかる布団やらの重力が、脱しがたい心地よさを生み出して、動きたくない。
ふとその中で、横になった体の上になった右腕に、布団とは違う重みがあることに気づいた。
それは一段と熱を持っていて、なんだろうと何気なく目を移した瞬間、仰天した。
暗闇の中でもその白さが浮かび上がっている、人の腕。自分の上腕を跨いで、その指先が頬と首の境目にあてがわれている。
腕を辿っていけば、なんで一番最初に気付かなかったんだろうという目の前に、巨匠が描いた古典絵画の女神もびっくりな、美麗この上ないティエリアくんの安らかすぎる寝顔があった。
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ここで続くってどうなんだ自分?(´ω`)
とりあえず管理人は、ヒロインと連載相手キャラを同じ布団に放り込むのが好きなようです。いや、その、下的な意味ではなくてだね?
この回の話を未送信メールボックスから発掘したら、保存したのが7月で吹いた。
今真冬だぜ…7月真夏だぜ…
酷すぎる俺。
ケータイ買い替えてはじめて小説打ったので。ヒサーンな位時間掛かりました。
SHARP→富士通でメーカー変わったから余計なんですよね、でも次変える時はNECにしたいお年頃です。
さて、今の内に続き書いてしまおう。
次回、とてつもなく短くなる予感( ´∀`)
091214
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