声には手を 手には声を
私を振り返る、彼の声に手を伸ばして。
手を差し伸べる、彼の瞳に笑みを。

 『声には手を 手には声を』

名前は任務に出ていた。
日向 ネジと共に。
と言っても、二人っきりな訳では無いのだが。

『砂の里まで…あと半日程度ですね』
「ああ」
『疲れていませんか?』
「平気だ」

任務中であるという事もあってか、ネジの態度は素っ気無いが、此れでも二人は木の葉の里を代表する美男美女のカップルだった。
とどのつまり、付き合っているということで…
ネジの性格を理解しきっている名前は、苦笑を浮かべるも無言で頷いた。

「…なんだ」
『いいえ、何でも無い』
「そうか」

二言三言交わすだけで、それ以上の言葉はない。
この二人には要らないのだ。
相手の全てを分かり切っているから。
その所為で、時々喧嘩もするけれど。
視線を交わすだけで、二人の頬は緩んだ。

ネジの背中にいつて行く内に、目の前に砂の里の風景が広がった。
今回の任務は、Bランク任務。
そこそこ難しい護衛任務であった。

『……ネジ』
「何だ」
『…無理は、絶対に……』
「分かっている、するなと言いたいのだろう。心配するな、自分の限界は自分が一番よく知っているさ」
『うん…』

心配げに眉を顰めて、名前は頷いた。
昔―、まだネジが下忍だった頃。
うちはサスケ奪還任務の班員として出て行ったネジは、重症を負って帰って来たのだ。
致命傷寸前の怪我を左肩と腹に。

その時の事を思い出しては、名前は胸を痛めるのだった。
だからこそ、無理はしないで欲しい。
名前の口癖だった。

「着いたぞ」
『…あ』

考えながら走っていたところ、ネジの声に我に返り、止まった。

「…どうした、疲れたか?」
『ううん、平気』
「そうか、…名前も無理はするな」
『…うん』
「行くか」
『はいっ』

自分自身を奮い起こす様に、意気込んで返事をした。


無理はしないで。
無理はするなよ。

重なる二人の思い。

疲れてない?
疲れたか?

労り合う二人の気持ち。

気付き、傷付き、理解し、離れ。

繰り返す数多の感情。

離れ、そしてまた、帰って来る。

誓い合う様に結ばれた気持ち。

一つ一つの言葉に、必ず笑んで返す事など出来ない。
時には怒り、時には泣いて、時には拗ねる。

心配そうに伸ばされた手に、何時も甘えてはいられない。

時には断り、時には苦笑して、時には首を傾げる。

「……どうした、名前」
『…え…あ、何でも無いよ』
「今日は珍しく上の空だな」
『そうかな、まあちょっと…ね』
「…何か有ったか」

本日二度目の苦笑。
そして、否定の気持ちで首を横に振った。

『ううん、平気』

今度は笑みを。

「そうか」

綺麗な瞳を細めて、ネジの微笑が名前に向けられた。

『うん、大丈夫』

そう言うと、名前はネジの長い裾へ手を伸ばした。
軽く掴んで、心中で祈る。

“大丈夫だから、その代わりに傍に居てね。”

『此れから先も』
「…」

一度首を傾げて、ネジは含み笑いをした。

“分かってるよ”

深い愛の言葉は要らない。
其れが二人の真実。

目を見れば分かる。

ネジは、名前が伸ばした綺麗な手を一度見て、もう一度笑った。

言葉は要らない。

だから手を伸ばす。

目を見たら分かる。

だから目を見て笑って。








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夢色☆風船  雛形有紀様より

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