運命なんだ
携帯が鳴った。
それは、家に帰って少し経った位だった。
シャワーの後で、髪がまだ、乾ききらない。
「伊月?ちょっとでられるか?」
日向の声は少し弾んでて、どこまで、って訊くとちょっとそこまで、って言った。
「いいからちょっと。もうついてるから」
驚いて窓から外をのぞき込むと、日向が右手を上げるのが見えて、焦って外に出た。
母さんにはちょっとそこまでとかなんとか適当に言いおいて。
「おま、髪はちゃんと乾かせよ…」
せっかく急いで出てきたっていうのに、日向の第一声はそれで、お前が出てこいって言ったんだろって拗ねてみせると、日向は悪い悪いって笑って俺の頭をぐしゃぐしゃにした。
「で、何」
「んー…だから、ちょっとそこまで。着いてこいよ」
そんなことを横柄にいいながら、俺の前に立って歩く。
俺はというと、何が何だか判らないまま、日向の後ろ姿を追っていた。
街中を少し外れて、細い路地裏の道を進む。
幾度か通ったことのあるこの道は、確か、町外れの高台への近道だ。
路地裏は夜だというのに少し明るくて、足元も覚束ないながらに前を歩く日向を見失うことはない。
暫く歩くと見慣れた高台に出た。
「ぅ、わぁ…」
見慣れた高台は、幾度も来ているにも関わらず、いつもと違った様相をしていた。
一面に星が瞬く。
大きく開けた夜空には数え切れないほどの星、星。
「凄いな、日向!」
嬉しくなって日向を仰ぐと、日向は嬉しそうな顔の後に、悪戯っこみたいに笑った。
「まぁ待て。もうすぐの筈だから大人しく空見てろ。見逃すなよ」
日向の珍しく意味深な言葉に、素直に夜空を見上げる。
正直、これは飽きない。
どれだけ見ても、新しい発見があるし、綺麗だと思う。
星空に見惚れて、そろそろ首が痛くなってきた。
それでも、この夜空から目が離せない。
そんな時、視界の端に何か横切った。
慌ててそこを見るが、もう何もない。
だけど今度は続けざまに、俺の視界の端に光るものが横切った。
それを、正確に視界に捉えると、今度はそれで視界が埋め尽くされた。
「流星群…!」
空を埋め尽くす、流れ星の群れは一度見取れてしまうともう目を離せない。
首が痛くなるのも忘れて、俺はその星に目を奪われていた。
日向は何も言わない。
だけど、なんとなくその姿を確認することもなく、日向もこの光景を仰いでるんだろうと思った。
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