だましあいっこ
例えばさ、と、古橋が言った。
「お前は、俺がお前を裏切ってたらどうすんの?」
は、と思わず布団に沈めていた体を起こした。隣に座っている恋人は、こちらを見ていないから顔は見れない。
口に含んだ水が顎を伝ってぽとりと落ちる。
別にこのベッドは伊月のものではないし、そもそも、髪を乾かして寝る、なんて習慣は持ち合わせていないから布団が濡れることなんて気にしない。
ただ、落ちたなぁ、と、水を飲むのに合わせて動く喉仏を眺めた。
どんな顔をして、古橋はそれを言ったのだろうか。
まぁ、そんなことはベッドと同じく気にしてもしょうがないが、さて、どういう答えを望んでのこの質問か。そんなことに頭を働かせたとしてラフプレイヤーのくせして何気に神経質で、被害妄想が酷く、やたらと変な方向に考えてしまうこいつには意味がない。
まったく、と、気づけば息が漏れていた。
「なに今さらいってんのー」
自分で思ったよりもかなり軽い声だった。
ぴくりと古橋の肩が揺れて、こいつも怖くなるのかな、となんとなく思う。
「お前が裏切らなかったことなんてあるの?」
はた、とこちらを向いた古橋は虚を突かれた顔をした。
俺はこいつを信じてなんかいない。
信じてなんかたまるか。
「俺を騙してくれるんだろ?」
にやりと笑って見せると、そのポーカーフェイスに微かに皺がよる。
俺は騙されたふりをしてやるからさ。
そんな顔にも気づかないふりをしてやるよ。
古橋の首に腕を伸ばせば古橋は拒みはしない。
甘い言葉だって、触れる手が優しいことにだって、気づかないであげる。
「古橋、すきだよ?」
「…………俺も」
ただただ、その深い死んだような瞳だけが、気持ちがわからないなんて、そんな些細なこと。
気づかないふりをしてみせるさ。
あとがき
自分で言うのもなんですが、私この話お気に入りでして。
古月だと割とこういうのも好きなんですね。
お互いの距離をはかりかねてる感じ。
ひさしぶりに読み返そうと思ったらサイトになくて。焦って支部に探しにいきました。