我が儘な騎士



 今日の森山は機嫌がいい。
 前の交差点で笠松と別れて、ひこひこと少し跳ねながら歩く森山の後頭部を見ながら、小堀はそう思った。今日のナンパは成功はしていない。いや、今日も、か。
 めんどくさい輩から他校の後輩を助け、ファミレスに入った後、暫く話して結局今日は帰るという流れになって小堀たち3人はすぐに電車に飛び乗った。東京を出発する電車は、地元の駅につく頃にはすっかり21時も過ぎてしまう。家が近いという兄妹はご丁寧に駅まで送ってくれて、真面目な奴だと笠松が彼を気に入ったらしくずっと話をしていた。

「……ご機嫌だな?」

 いい加減に気になって、森山の後ろ姿に声をかけると、ふっふっふ、とわざとらしく勿体ぶった調子で振り返った。

「今日は美少女とお近づきになれたからな!」

 変なポーズと共に突き出されたスマホの画面には、伊月舞、と先ほどの誠凛の5番の妹の名前。笠松が連絡先の交換をしないように見張ってたはずだが流石というか、ナンパは成功しないくせに笠松を出し抜く技術ばかり上がっている気がする。
 知らないぞ、と苦笑すると、内緒な、と森山は立てた人差し指を口元に持って行った。そもそも敢えて言いつけてやるつもりもないから曖昧に笑っておく。こんなことをしていたらまたバレた時にでも笠松にお前は森山に甘いと怒られてしまいそうだ。

「まぁ、それともう一つあってだな…」
「ん?」

 踵を返して帰宅の道に戻った森山が、珍しく神妙な空気を作る。

「笠松がさ、ちょっと、調子戻ったみたいでよかったなぁって」
「………あぁ」

 森山は、最近上の空な笠松のことを心配していた。話をしている最中だとか、授業のふとした瞬間。流石に部活中は何か他のことを考えている時間はないらしく、そういう素振りは見せてはいなかったが。ふとした瞬間に考え込んだり遠くを見ていることが増えていた。二年の試合でのこともあって、気を揉んでいたのだ。
 今回のナンパも、元は笠松の気分転換にと東京までの遠出とあいなったわけで、それがうまくいったともなれば嬉しくもなるだろう。機嫌がいいのはそういうわけだ。

「あいつすーぐ溜め込んじまうからな」
「そうだな」

 くくく、とおかしそうにくしゃりと顔を歪めて笑う。中学校も笠松と同じらしい森山は、小堀よりも付き合いが長い分、笠松の悪い癖や、ちょっとした感情の変化なんかが見えているらしい。小堀自身も、今年で3年一緒にいるがやはり中学3年の差は大きい。
 だからといって黙りっぱなしでいるつもりもないが。

「笠松のこと、よく見てるな?」

 ふいに聞こえるかどうかも微妙な声音でそんなことを言ってみると、耳聡く聞きつけて小堀を見上げた切れ長の目が丸くなる。夕闇のなかで、僅かに拾った光を反射して、森山の瞳を漆のように艶やかに光らせた。
 途端、その目が細く笑う。

「そりゃあ、親友だからな?一応」
「…………」

 何が一応だ。その辺の親友の関係よりもずっと近い心に住まわせておいて。笠松が傷ついたら森山は、徹底的に笠松を守ろうとするくせに。
 存外大きく吐いた溜め息に、森山がからからと笑った。

「大丈夫だよ。小堀は恋人だろ?」

 するり。投げ出された小堀の手に森山の細い指先が絡みつく。まるで焦らしているかのように時間をかけて触れ、握らないままのそれを、結局誘われるままに強く握りしめてしまった。

「……お前なぁ…」

 声を出さずに森山が笑う。それだけで何も言えなくなってしまう。自分の嫉妬心を見通されている気がして、落ち着かな気に森山の手を握り直した。

「ちゃんと好きだよ」

 握りなおした掌が、さっきよりも少し強い力で握り返してくる。それだけでなんだか堪らなくなって、思わず腕を引いた。

「………」
「……………こぼり」

 ここ公道なんだけど、と少し責めるように語りかけてくる唇をもう一度塞いだ。握り締めた掌は小堀の行動ひとつひとつに反応してひくり、と震える。
 はぁ、と放した唇から吐かれる息が熱い。

「…森山、今日うちくる?」
「……明日部活だからな」

 拗ねたような声音。了承と取って繋がったまま離れない掌を引く。

「わかってるよ」

 たまには我が儘も聞いてよ。


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という二話目。
これ以降は準不同、ご自由にお読みいただけます。
笠月→王子
小森→騎士
でタイトルを付けているのでご参考にしてください。


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