運命じゃない運命




ぽす、

ユニフォームから制服に着替えた所で、背中に 小さな衝撃がきた。 続いて、腹の方に腕が回る。 肩に額が乗る、その背の高さは、愛しい恋人の ものだ。

「森山、どうした?」

腰に回った腕に手を添えながら訊くと、小堀、 と籠もった声が俺を呼ぶ。

「…森山?」
「………なんでもない。ちょっと、甘えたくなっ て」
「……そっか」

たまにこういう事がある。 何かの周期なのかなんなのか、不意に不安に なったと、森山が甘えにくる。 そういえば、今日ふと考え込むことが多かったような気がする。 たいてい、そう言うときは、何も言わずに甘え させる。普段は先輩として前向きにと振る舞う森山だ。疲れたりする事もあるだろう。

ぎゅぅっと、腰に回った森山の腕を緩めて、森山の方に向き合うと、頭を抱き込むように背中 に腕を回し、森山の額を肩に預けさせる。

ぽんぽんとリズムをつけて森山の丸くなった背中を叩いた。



しばらくして、落ち着いたのか森山から剥がすように胸を押された。不安な気分のまま抱きつ いたはいいが、正気に戻ると恥ずかしくて仕方ない、そんな理屈らしい。

今日もちょっと距離をおいてみると少し赤くなった顔を背けられた。

ぎゅっと抱きつく位、とも思うがいつまで経ってもそれに慣れないらしい森山が可愛い。

自然と口元が緩む。

「もう平気?」

そう訊くと、おう、悪かったなと拗ねたように返ってきた。

だからそういうのまた抱き締めたくなるからやめてくれ

なんて言えば、赤い顔をもっと赤くして、馬鹿 とか言われるんだろう。そういうところも可愛くて好き、 とかもしかして俺相当森山にやられてるかもしれない。

「それで、今日はどうした」

ベンチに誘導していき、俺の横に座らせた森山 は、今度は俺の肩に頭を預けた。

俺はいいけど笠松は、と訊くと帰ったよ、と返ってくる。 つまり今ここに残ってるのは俺たちだけ。森山 が躊躇いなく甘えてくるのに納得がいった。 普段、誰かがいると、甘えろと言っても無理をするのが森山だ。

「んー…」

森山と視線は合わない。 その視線は俺を避けるようにこれから闇に染 まっていく外へと向けられていた。

「……俺は、こんなにお前が好きなのに、運命じゃないんだなって思って」

そう言った小さな声に虚をつかれた。

「俺は、お前が大好きなのに、絶対に越えられ ない壁みたいのがあって、元々、絶対に一緒になることはないみたいに生まれて、俺たちって 運命に導かれたわけじゃないんだな……って」

だんだん涙を含んで来た声。

ずっ、とはなを啜る音が聞こえた。 今日はずっとそれを考えてたのか。

「……それでも、いいんじゃないか?」

ちょっと悩んで、俺が出した結論に、今度は森山が虚をつかれたような顔をした。

「男同士で生まれて、友達になって、親友になって、恋人になって。それが俺たちの運命だったんじゃないか?どちらかが女の子だったとしたら、多分俺は付き合ってなかったんじゃ ないかと思う」

「小堀…」

俺を見上げた目は、少しだけ赤くなっていた。

「好きだよ、森山」

前髪を軽くかきあげて、額にキスをしてやれば その顔がぼわっと赤く染まる。

「〜〜〜〜〜ッ」
「うわっ!?」

照れ隠しか体当たりのような勢いで抱きついて、ベンチに倒れ込む。

「お前恥ずかしい奴だな!」

俺の胸に顔を埋めて頭をぐりぐりしながら森山が叫ぶ。 それ、森山には言われたくないなぁ なんて思いながら、森山の頭を撫でてやると、 ちょっと大人しくなった森山が顔を上げて、その顔が赤くなってることを確認する前に口づけられた。

「俺も好きだ!」

真っ赤な顔で、何か嫌なことに挑むような涙目で叫ばれて、

なにか一世一代の告白みたいだな、

と笑いがこみ上げた。

「森山、大好きだ」


あとがき

再録。
なんかページが見つからなかったので…
なんでだろ?

小堀なら、俺たちが運命じゃないことも運命だよって言いそうな気がしたから。
森山より小堀の方がロマンチストなんだと思います。森山さん現実的なイメージ。結構。





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