私のどこが好きですか



「宮地さん、よくあれと付き合う気になりましたよね…」
 
それを口走ったのはもう定例と化したストバスの昼休憩のマジバで、バーガー片手に、付き合ってる彼女の幼馴染である日向。
 
あれ?と首をひねると、ちらりと視線だけを、宮地の彼女であるリコに向けた。
人数の関係で少し離れた所に桃井とふたり、女子トークならぬバスケサポーターならではのトークに花を咲かせる彼女の、女子と連んでいるのもなかなかないため、新鮮だ。
 
てめぇ、人の彼女あれとか言ってんじゃねぇ轢くぞ、と言葉と声だけで告げる。実際幼馴染なのだから「あれ」といえるほどの親しさはあるのだろう。その仲のよさに嫉妬する時期はもうとっくに過ぎていた。
 
月に一度、近くにいる高校時代のバスケ仲間と連れ立ってバスケを続けている。
メンバーは修徳が宮地と木村。大坪は兵庫のほうに進学した。
ほかには海常の笠松、森山、たまに小堀も来る。早川と中村は今年神奈川のほうに進学し、笠松らは上京という形で東京に出てきたことになる。とは言っても、結局のところ2人も神奈川は電車でこられない距離ではないからたまに混ざる。黄瀬は仕事と部活が入ってなければ合流する。部活があるのにきたりすれば笠松から鉄拳が飛ぶ。
あとは、今年卒業したばかりの日向と、木吉。伊月は東北のほうに進学したと聞いているが、予定が合えば混ざる。
このメンバーでバスケをするとなれば、当然、リコも参加したがるわけだ。
たまに黒子が来るためか、桃井もどこから情報を仕入れたのかよって来る。
高尾や緑間、火神、黒子などの宮地たちが卒業したときの1年は今年3年。予定が合えばくる、合わなければそっち優先、とこのストバスが始まった当初に決まった。
 
大学ではサークルも悪くはないが、やっぱり本気でやりあうと違う楽しさがある。
大学のサークルでバスケをやっている人たちは、やはりどこかゆるい。もともと、宮地と笠松が大学では緩くはなるだろうと覚悟してはいたが、そのあまりの緩さに欲求不満を爆発させた結果始めたのがこのストバスだった。
 
偶然にも大学が同じであった笠松は、学内で顔を合わせて以来、学部が違うから授業を共にすることは少ないが、一緒に行動することも多い。元来の性格が似ているのか不思議なことにうまもあった。

だから、こうやって人数を集めてのストバスにこぎつけることができた。
いつの間にか大分な大所帯になってしまったが。
 
どうして惚れたのかなんて、聞かれても分からないとしか答えられない。
 
そもそも宮地とリコの間には接点が「バスケ」しか存在しない。しかも片や他校のバスケ部のカントク、片や他校の選手。接点など持ちようもなかった。
初めて出会ったのは3年の合宿が一緒になったときであったし、そのときに偶然であったがふたりきりで顔をあわせることはあるにはあったが、ちょっと脱いでくれませんか、なんてことを口走る痴女に無理やりにシャツを脱がされる珍事に宮地は泣いた。せっかくだから!などとなんともどうでもいい理由に、問答を繰り返していたら、そのうちに木村や大坪も寄ってきて、結局宮地たち3人そろってTシャツを脱がされた。後に落ち込む宮地を見て高尾が爆笑していた。当然ながらシバき倒したが。
 
お互いを知ったとして、ここくらいではあるが、はて、それがきっかけであるとは思えない。
まぁ、半ば無理やりに脱がせておいて「少し足りてませんね。バランス的に」とか口走る失礼な女、だった。一応気にしてはいたのに。ちなみに落ち込んだのはそれが原因だ。
 
それからなぜかリコは宮地に寄ってくるようになった。
付き合い始めてから聞いてみたところ、どうやら後に大坪に言われてそれなりに気になっていたらしい。
 
そう…強いて惚れたところをあげるとするならば。

「………あいつに惚れたんだよ」

あいつ?と、日向が首を傾げた。

「凛としてかっけーだろ、あいつ。でも、危なっかしいっていう…」
「………あー…」

思い当たることがあったのか、納得したようだ。
宮地さん、ほんと面倒見いいし、苦労買っちゃうタイプですよね、とわかった風に口をきくのに、そうかもな、と適当に相槌を打った。



「何の話だったんですか?」

煩い野郎の集団と別れ、今日は泊まりの予定になっていたリコとふたり、宮地の家へと向かうその途中。
私の名前が聞こえたんですけど。と。
人間とは得てして喧騒の中にあっても自分の名前は聞こえるものである。

「あー…いや、」
「またあいつら何か言ったんですか」
「……いや、それはねぇよ」

てかお前もあいつら、なんて気安く言うな、と自分よりもだいぶ低い位置にある髪をぐしゃぐしゃに撫でる。
ちょっと、と拗ねたように尖らせる唇奪ってやろうかとちらりと思うが、帰路であり知り合いにでも会ったらちょっと気まずい。
日向がリコをあれ、と呼ぶように、リコも日向をあいつと呼ぶ。それが少し楽しくない。その気安さは嫉妬しちまうから。

リコと付き合う当初、親バカだから、と聞かされていたリコのお父さんは早めに攻略ときたもので、先に色々と話をした結果、お泊まりは許可された。
昔からバスケが好きであった宮地からすると、リコの父は憧れの選手であり恐縮しがちではあったが。

そして、リコには更に3人の心配症がいて、日向と伊月は仕方ない。男慣れしていない男勝りな女の幼なじみを、好いて付き合って、だなんて心配もするだろう。日向はよく好きになりましたよね、なんて大人ぶってはいるが、ことあるごとに宮地にもリコにもくってかかる。リコがまた、なんて笑ってるのは幾度か見た。伊月は伊月で…伊月は、ある意味では日向よりも面倒だ。リコの知らない所で探りを入れてくる。何度同じことを言われたところで、宮地の答えは変わらないというのに、しつこいほどに、でも、心配してるのだと分かる。
そしてもう一人は木吉であり、こちらは親と言うよりも恋敵の目だった。会う度に、仇を見るような目をされる。何かありでもしたら、取られる。その恐怖感は自然とリコを大切にしようという気持ちにもなった。
ある意味では、この関係を続けていられるのはそうやってリコのことを心配して、宮地の背も押してくれる、そんな存在がいたから、ということもある。

リコにとって、3人は、きっと帰る場所であり、逃げられる場所であり甘えられる場所である。
その位置に取って代われるような自信は今の自分にはないけれど、そんな存在になることができればどんなにいいか。

だからといって、あいつらの位置にもいたくはない。

じゃあなんなんですか、と少し食い気味に身を乗り出す彼女から目を逸らす。
自分の気持ちに嘘はないし、何度も彼女の耳元で気持ちを囁いてはきたが、正気の時に面と向かって、は、ちょっと。

なんか言いづらいことでもあるんですか、と言う彼女の、自分が珍しい反応をしている自覚は一応ある。

「…お前の、好きなところ」
「…………はぁ?」

そんなこと話してたんです?とあきれ気味の少し低いはっきりとした音は、スポーツの好きなさばさばした性格からくる、そのもの。
乙女か、と呟いた恋人にふたりきりの時はお前も大概乙女だけどな、と思うのは盲目なだけだとは一応気づいてる。

いつも散々甘やかしてやって、そう言うのが苦手なくせに、こういうことには平然としている。そのギャップがなんとなく面白くなくて、繋がった彼女の左手を、少しだけ強く握ってみるとさっきよりも少しだけ強い力で握り返された。

「……それで?」
「あん?」
「清志さんは、なんて答えたんですか?」
「……………」

こいつ、と自分を見上げるリコは、面白そうに言った。凛々しい眦が猫のように笑っている。
普段は頼んでも名前でなんて呼ばないくせに。

自分の頬がひくりとひきつるのを感じる。

ね、清志さん。
掌から腕に、するりとすり寄る様はまさに。

「全部だよ、ばか」

ふふふ、と楽しそうに、頬を染めて笑った彼女に、怖い女だよ。なんて思った所で、惚れた弱みってやつだよ、なんて悪友には笑われそうだ。


あとがき

お読みいただきありがとうございます。
お久しぶりです。
少し忙しさは落ち着きましたが、絶賛スランプ真っ只中です。私はどれだけスランプに陥れば気が済むのか。
今回のものもいったい何を書きたかったのか。
実はなにも考えていない状態から書き始めました。
リクエストであげられるようなものは書けておりません。ごめんなさい。

最後に一言。
リア充末永く爆発しろ!






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