玉の緒よ、






好きだと、まるで、心の許容量に想いが耐えきれなくなったみたいだった。

それを伝えたのは昔からの幼なじみで、親友と言っても問題はないであろう日向というその人で、でも、俺が今まで一番好きで、それを伝えてはいけないひとだった。
俺が日向に恋心を抱いたその時点で、幼なじみも親友も成り立たなくなった。
日向にだけは、そんな感情を持ってはいけなかった。だから、気づかないふりをしてた。
なのに。

なぁ、日向は、俺のことを好きだって言うけど、それは恋愛感情じゃないもんな。
会話のノリで夫婦ごっこをしたり、もう結婚しちまうか、なんて、そんな高校生なら当たり前に冗談で言ってしまえるそれが俺には冗談なんかじゃなかった。

そうやって、恋を連想させる言葉が俺にとってのタブーだ。
口にするたび、日向が友人だと確認するたび、どきりと心臓が打つ。
息が苦しくなる。
俺が女だったらこんな感情気にする必要がなかったのに。
こんなに悩むことなんてなかったのに。

このままだと、溢れてしまいそうで、いっそのこと、溢れてしまう前にこの感情を殺して終おうと。
俺は、絶え間なく注がれ続ける感情をなかったことにして隠しておける自信なんてないから、殺してしまおう。

陽が落ちて、高くから降り注ぐ電気の光が体育館を煌々と照らす。

先ほど、最後まで残っていた火神と黒子が帰ったばかりだ。

俺と日向だけ、帰る方向が一緒であることと体育館の施錠という名目で居残った。
日向を手伝って、体育館のカーテンや窓の施錠を確かめると、2人で体育館を出る。ここで、いつもならそのまま帰るところを、日向、と幼なじみでも親友でもない日向を呼んだ。

「なんだよ、帰らねえと遅くなるだろ」

「うん、ちょっとだけ、話させて」

雰囲気を読んでくれたのか、日向は帰りかけの身体を、反転させて俺を真っ正面から見た。

小さい頃から大好きな、日向だ。

「日向、俺、お前が好きだ」

ひゅ、と微かに息を呑む音が聞こえた。

「日向が、恋愛対象として好きだった」

真っ直ぐに見た日向の目が見開く。
ぱくぱくと金魚みたいに日向の口が空気を吐く。

さようなら、俺の恋心。
もう、こんな感情は終わりにしよう。

「都合が良すぎるのは、分かってんだけど、これっきりにするからさ」

友達のままでいてくれるか。

一緒にいたい。
一緒にバスケがしたい。
一緒にめざしたい。

それだけでいいから。

「………」

ずっと黙っていた、日向の唇が開く。
俺の恋心の死刑が宣告される。
それを望んではいたけど、やっぱり見たくなくて辛いものを見る瞬間に目を逸らすみたいに思わず目を瞑った。

「馬鹿、友達になんて戻らせてやんねぇよ」

俺も好きだ、と。
心地よい音程で耳を優しく震わせた。

俺の恋心は生き延びることができたらしい。




あとがき

元は、
玉の緒よ 絶えなば絶えね 長らへば
忍ぶることも 弱りもぞする
という歌でした。
意味は
「私の命よ、死んでしまうと言うのなら死んでしまいなさい。長く生きてしまえば、この恋心を隠すこともできなくなってしまう」
という感じのものです。
凄く好きなんです。この歌。
今回は「玉の緒」を「命」ではなく「恋心」として描いてみました。
完全に主観なのでかなり読みにくいですが





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