暴き暴かれて
瞼が重い。
同じように重たい身体に鞭を打って、周囲の様子を観察する。
もそ、と隣で眠る笠松さんを見てみれば抱き寄せ合って眠った筈なのに丸まった背中が目に入る。
「笠松さん?」
朝方。
カーテンの隙間から薄く青白い光が部屋を照らす。タオルケットから出した腕が白く浮かび上がった。
ごそり。
タオル地の粗い目の布を手繰り寄せ、厚い背中に擦り寄る。
「………笠松さん、起きてるんでしょう?」
「…………」
笠松さんはうんともすんとも言わないけれど、わざとらしく寝息や起床の兆しも見せないことが、ある意味では返事となった。
たまに、ほんのたまに。
笠松さんは口を噤む。
いつもはそれは俺の役目で、笠松さんはそんな俺を窘める。なのに笠松さんも口を噤む。
「…………」
ムカつくなぁ。
俺のことは、暴いて、窘めて、甘やかしてどろどろにするくせに、笠松さんはその権利を俺には分けてくれない。
ズルいな。ムカつくな。
年上だとか、先輩だとか、憧れの選手そんなことは全部抜きにして、この人が俺に暴かれてくれないのは狡い。
「かーさまーつさん」
幸男さん、と呟くとかすかにぴくりと揺れる。
やっぱり起きてるんじゃないですか、と思ったけれど、特に何も言わなかった。
「幸男さん、好きですよ」
笠松さんがこちらを向かないのならそれでいい。俺が勝手に何をしようが笠松さんには関係ない。
夏とは言え、朝方は冷える。
冷たい指先で笠松さんの背中に触れるとぴくりと身体が跳ねた。
顔の位置から、その指先を辿るように背中にキスを落としていく、そのたびにひくりと笠松さんの身体が震える。
かつて、笠松さんと唇を合わせた時のように。笠松さんにそう教わった時のように。
啄んだり、舐めたり、かじりついたり。
それは、肩甲骨のあたりから背中へ、腰へ。
そして。
「……おい」
「あ、笠松さん」
腰から少し身を乗り出した所で笠松さんの手が俺の腕を掴んだ。
「おはようございます」
起きられました?と首を傾げるとひくりと笠松さんの頬が引きつる。お前、と呟いて、はぁと大きく息を吐き出した。
伊月、と呼ばれて返事をする前に掴んだ腕を強く引かれた。
顔を上げれば笠松さんの何か面白いものでも見つけたような顔が見える。
……悪い顔だなぁ。
引き寄せられて、唇を寄せて、優しく舌先から全身へと響いていく痺れに、穏やかに眠っていた筈の狂気が喉を咬んだことに、思わず安堵が漏れた。
あとがき
どうも、お久しぶりです。
久しぶりに30分クォリティーの何を描きたいのか行方不明な笠月ができました。