好きだった人




※小森注意


 ピンポン、と、安いアパートのチャイムが軽く鳴る。
 このならし方は、と小走りに出迎えに出ると、ドアを開けた先で伊月がこんばんわ、と微笑んだ。

 伊月の肩には大きなエナメルバッグ。
 部活の帰りだと言った伊月のそのバッグには、部活のシャツなどの他に、今日の泊まりのために持ってきたアメニティやタオルなんかがぱんぱんに入っているのだろう。

「伊月くん、ご飯は?」
「食べてきました」

 そう、と頷くと狭いキッチンに立つ。

 伊月が好むのはブラックコーヒーに少しのシロップ。ミルクもいらない。
 俺にはどうにも甘いそれは、伊月の舌にはたいそう合ったらしい。

 特に何も促すでもなく、適当に入ってと開け放った部屋に、伊月はふてぶてしくも躊躇うことなく座り込む。

 もうこれで何回目になるのだろうかとそのかつての想い人の恋人の美しく丸い曲線を描く後頭部を見つめた。

 俺の恋人が帰ってくるまであと一時間。ということは、笠松が俺の部屋に乗り込んでくるのはあと一時間ほど。

 まったく2人して素直ではないのだから喧嘩するたび不安になるたび、俺の部屋にくるのはやめてほしい。


 さて。

 俺の昔の想い人。今度は何をやらかしたのか。想い人である以上に親友である男のその性格を知っているだけに、全くあの男を好きな伊月に同情を覚える。

 コトリと伊月が膝を抱いて座ったその目の前のテーブルにコーヒーのマグを置いた。

 黒くて深い黒曜石の目が俺を見る。

「あいつ、今度はなにしたの」

 あいつには悪いけど残念ながら俺は伊月の味方。



あとがき

唐突SS2本目。
森山さんは昔笠松さんに想いをよせていた設定でした。
ところで、森山さんと笠松さんの志望校が同じことが明らかになりましたね。
によによ止まりませんね。
笠松さんと伊月は喧嘩したら伊月は森山さんとこに逃げ込めばいいと思います。
笠松さんは小堀さんとこに愚痴りにいくんですかね。
かわいいですね。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -