事実は小説よりも奇なり



この世とは奇異なもので、例えば、先生と生徒が付き合っている、とか。かと思えば、昔話には自らの義理の母親に恋をした、なんてものもある。
もっと奇妙なのは、同性に恋をするなんてこと。確かに女の子が可愛いのは認める。が、男同士なんて正直もっての他だ。むさ苦しいだけじゃないか。なんで男なんか。
だが、どちらにしても一般的には正気の沙汰ではないが実際に存在はするし、自分には関係ないと思っていた。

関係なんかないと思っていたんだ。



中性的なイケメンというのは存在する。
国民的な男性アイドルグループなんかにもそういう人はいる。
そして、何の因果か俺の後輩には黄瀬というモデルがいて、そして、先輩には些か残念だが、森山先輩という美しい人もいる。
そして、現在その美しい人が戯れているのが、これまた艶のある黒髪に切れ長なの目が美人と言うに違わない、誠凛の伊月だ。

「伊月!今度の日曜は空いてるかな!?海常は部活休みなんだ」
「えっと。あ、誠凛も休みですね」
「本当?やっぱり君と俺は運命の糸で結ばれているんだね!」

凄まじいテンションで伊月に詰め寄っているその人が、自分の先輩だとは思いたくない。
しかも、それが誰もが振り返るイケメンだなんて、本当に認めたくない。
その性格がなければナンパが連戦連敗だなんてことにはならないだろう。

あはは、なんて素直に笑っている伊月は本当に我慢強い。

「あっそれじゃあ、日曜は日用品を買いにいくのに付き合って貰ってもいいです?キタコレ!」
「勿論だよ!」

ああ、話が合っていない。
なんということだ。

監督のお使いとやらで海常を訪れている伊月はものの見事に森山に捕まっていた。だが、天然なのかなんなのか。さっさとお使いを終わらせようだとか、そういう意思を感じられない。あんな面倒なもの、もとい、面倒な先輩なんて放っておいてくれた方がこちらのためにもなるのだが。

もっと酷いのはそれが森山先輩だけではないということ。

「森山ア!!他校生に迷惑かけてんじゃねぇ!!」
「ごふっ」

あ。

思わず出た声は隣で練習をしていた早川と被った。早川も騒がしいそちらがわが気になっていたのかもしれない。

あーあー、と聞こえてくる声は黄瀬のものだ。はは、と苦笑する小堀先輩の声や、他の先輩たち、同期や後輩たち。

結局海常バスケ部の殆どがその光景を見ることとなったらしい。

なにはともあれ、主将の拳が綺麗に副主将の鳩尾を捉えた光景を見てしまった俺たちは静かに森山先輩に合掌しつつ、イケメンザマァなんて本音を隠す。
まぁ、残念なイケメンであるところの森山先輩のことなので、どちらかというと同情の方が大きい。

それだけならまぁ、森山先輩の可哀想な話でこの話は事足りる。森山先輩の叶わない恋なんてこの世に巨万とある。

「おい伊月!この馬鹿に何かされてないだろうな!?」
「そんな、何かなんて。強いて言うならダジャレに付き合っていただきました!!」

心配顔で笠松先輩が伊月に駆け寄る。
そんな心配そうな顔しなくたって見ての通り森山先輩は伸されてるし、伊月は見た目よりも図太いですよ、と、言いたい。

「…そうか」

いつも鬼のような形相で怒る笠松先輩の表情が柔らかい。そんな足元で森山先輩ぴくぴくしてるのに。違う意味で怖い。

要するに、この尊敬すべき先輩も、伊月が好きだ。

ああ、この世とは本当に奇異なものである。

事実は小説よりも奇なりなんて誰が言った。
こんな形で体現などしたくはなかった。

かっこよく森山先輩から伊月を救出した笠松先輩は、やっぱりかっこよく伊月の身を案じているが、少し心配性すぎると思う。

こんなハチャメチャな先輩方だけれど、やっぱり大好きな先輩なわけで。できれば応援したいのだけど。

「邪魔するな笠松…!」
「うっせぇ!他校生にでかい図体で詰めよってんじゃねぇよタコ!!」

めんどくさいことになる予感しかしないので関わることはごめん被りたい。


あとがき

お読みいただきありがとうございます!
リク主S様のみお持ち帰り可とさせていただきます。
森山→伊月←笠松を傍観する海常メンバーということで…普通に中村メインになりました。
お詫びいたします。
完全にギャグです。
もしかしたら初かもしれないギャグです。
しかし笑えるかどうかは私に笑いのセンスがないのでわかりません。
申し訳ないです。

さて、それでは、お読みいただきありがとうございます!
またいらしてくださると幸いです!





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