勘弁してくださいよ



高尾は焦っていた。

人生初のヒトメボレってやつを体験して、まさかその人が同性だったなんて正直思わなかった。
同性を好きになる、なんてあり得ないことを認めて、そしたら好きになってもらいたくなって、必死の想いで告白したその返事がOKなんてまだ自分は夢をみているんじゃなかろうか、なんて、
高尾には珍しくちょっと信じられないくらい。

もうあれから3ヶ月も経っていて、既に学校が終わってから一緒に帰ったり、なんてこと続けていたら軽く20回はデートしている。正確には24回だ。

想いが通じてからは基本高尾の押せ押せ状態ではあるものの、告白した日から次のデートはやたら気恥ずかしかったり、普通ならあり得ない時間にかかってくるなんでもないような電話だったり、手を繋いではにかむ横顔だったり。

つまりは、この黒髪の美しい、元は他校の先輩であるこの恋人に、ぞっこんなわけであります。

今日も恋人は指の先まで綺麗だと、高尾は目の前で夕食を食べる伊月を見て思う。

箸を持つ仕草や、口への運び方、一つ一つが洗練されて綺麗だと思う。
勿論、惚れた欲目だ。
実際には箸を持つ伊月の手は少し変な癖がついている。

そして、話は戻るが、高尾和成は焦っていた。

好きで好きで仕方ない、それこそ同性だなんて越えようもない壁ですらものともしないくらい好きだと言うのに、いや、好きだからこそ、高尾はキスをするのすら出来ずに攻めあぐねていた。

そう言う雰囲気にならない、と言うのも勿論ある。場所という問題も。相手が女の子なら外で、なんてこともしたことはあるが、流石に男だし。

しかし、ぶっちゃけそんなことは建前で、高尾に勇気がないだけだ。

キスをしようとして、拒絶されたら泣けてくる。抱こうとして、本気で怖がられたりなんかしたら立ち直れないかもしれない。

聞くともなしに昼飯時に緑間に漏らせば鼻で笑われた。

テスト期間に入る前に一度デートした伊月との、久しぶりのデートは指先だけで軽く手を握って。多分周りからは手を繋いでいるようには見えない筈。

掌に熱が籠って熱い。
汗ばんでやしないだろうかと気をつかい、でも、伊月に触れたくて、近くに行きたくてきゅうと指先に力を込める。

「あ」

光の漏れる住宅街。
伊月の家に彼を送ろうと歩いていたところに伊月が声をあげた。

「どうかしたんすか?」

ふ、と立ち止まると、腕を引っ張られて高尾は後ろを向く。

「高尾に借りたCD忘れた。悪い、高尾。うちによっていかないか?」
「ああ、了解っすー」

がさごそと鞄の中を探って最終的に出た結論はそれだ。つい二週間ほど前に、確かにお気に入りの洋楽のCDを貸した。

暗い帰り道。
街灯が薄く二人を照らす。



伊月の驚いたような表情を見下ろす。

組み敷いた身体は、突然のことに反応ができていないようだった。
まぁ、何って。
焦った結果、高尾はCDを返して貰おうと寄った伊月の部屋で、伊月に詰め寄ったはいいけど勢いをつけすぎてそのままベッドにダイブしてしまった。それだけだ。

「た、かお…?」

それだけだったのだが、高尾の表情を見た伊月の顔が、強ばった。

脅えさせてしまった。

それは、高尾にとっては大問題で、キスをするなら、抱き合うなら。二人で最高に幸せになりたくて、間違ってもこんな表情をさせるつもりなんてなかった。

「ごめんなさい!」

反射的に口をついたのはそれ。
あわっとすぐに伊月の上からどこうともがく。

「へぁ!?」

照れるやら青ざめるやら、なんとも言えない表情で忙しげに身体を起こした瞬間、高尾の項に掌が回った。意表を突かれた高尾は抵抗も出来ずにベッドに戻る。

「伊月、さん?」
「なんだ、やっとくるかと思ったのに。襲ってくれないの?」
「へ、」

なんだなんだ。この状況。
焦る高尾を尻目に目の前の恋人は綺麗な表情を口元も目元も、やっぱり綺麗に、笑う。見たことはないけれど、この表情を妖艶と表現するのではないだろうか。

一気に顔に熱が集まった。

「ね、高尾?」

キスしてよ。

一文字一文字がやけにはっきり聞こえて、だから余計に、頭がいっぱいになる。

変な声が出た。

なにこれ。

顔が熱い。熱が出たみたいだ。

もう片方の腕も、高尾の首に回った。
高尾、と、伊月の声が更に彼を呼ぶ。

「あの…っ」
「もう。」

更に攻めあぐねていると、今度は凄い力で引き寄せられる。
その勢いで、唇が重なった。

あ、柔らかい。
反射で思ったのはそんなこと。ずっとずっと悩んでいたのに、こんなに簡単にそれは奪われた。

「……」

ちゅっと小さな音が聞こえて、伊月の唇は離れた。その濡れた唇の上で、空気が震える。

「高尾がしないなら、俺からするよ?」

いいんだね、と念を押されて、してもいいのか、と、今更ながら思った。

それから、ぱくんと2回目のキスで食われた。





あとがき



読んでいただき、ありがとうございます!
リク主多恵子様のみお持ち帰り可です。

これ違う。リクエスト内容と絶対違う。
そして私はこれを高月だと言い張る。
恐らくね、多恵子様は下克上出来ずに悔しい伊月が欲しかったのだと思うのですよ。わかってるのにこういうことする奴ですよ私は。
と言うわけで、恐らくお望みになられた内容と大幅に違うものとなりましたことを深く謝罪申し上げます。
申し訳ありませんでした。

あと、高月の日おめでとう!

また来てくださると幸いです。






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