1 | ナノ


 数週間後。
 あれから、森山と伊月は幾度か逢瀬を重ねていた。大抵は森山の家で伊月が夕飯を作り、共に食卓につくということに終始する。森山の家のキッチンは大分伊月が使い易いようにと配置されていった。森山が夕飯を作ってくれと伊月に言ってくるのは森山のバイトが休みであることが殆どだが、偶に、バイトがある直前に夕飯でも、と森山に外食に誘われもする。
 元々、伊月はアウトドアな方ではない。外へと連れ出してくれる森山の存在は貴重で、下手をすると大学が同じ同級生よりも出掛ける頻度は多い。
 そんな毎日に、伊月はいいのかなぁと不安になりつつも、森山と会う時間が楽しみになっていた。
 そんなある日。
 その日も、森山と約束をしていた。今回は森山と外食だと聞いていたので午前中から午後まで授業が入っていたので、荷物になるテキスト関係を家に置いて待ち合わせに向かうと、少し約束に遅れてしまった。
 待ち合わせ場所には伊月のよく知る森山が立っている。森山は夜の少し寒くなった空気にふるりと身体を震わせた。その様子に、伊月は少し罪悪感を覚え歩みを早めた。元々早歩きではあったので殆ど走ってる状態だ。
「森山さん!」
「伊月」
「すいません、遅くなって…」
 声をかけると森山はすぐに気がついた。いやいやと苦笑する。
「まだ時間あるし、平気だよ。あと、ごめん伊月。この後人増えてもいい?」
 申し訳なさそうにそう告げた森山に、思わずえ、という声が漏れた。
 知ってる人ならいいが、伊月は元来人見知りだ。慣れたら平気だが、めったに話さない人だったりすると、全く喋ることができなくなる。森山に話しかけたのでさえも元々はめったに会うことのない知り合いに会えたことが嬉しくてかなりの勇気を振り絞って声をかけたもの。
 そこにまた他人が入るとして、果たして伊月は普通に接することができるのか?
「あの…森山さ」
「大丈夫!伊月も知ってる人だから」
 不安な様子に気がついたのか、森山が先回りしてそう言う。元より一緒に行くつもりだったのか。
「向こうの約束忘れてて。なのに伊月も誘っちゃってどうしようかって思ってさ。でも伊月ならいいかなー…とか」
「なら俺今回は遠慮しますよ?」
「いや、どうせなら紹介したいなー…とか?」
 ダメ?と申し訳なさそうに小首を傾げる森山に仕方ない、と伊月は溜め息を吐く。
「ちゃんとフォローしてくださいね?」
 断られると思っていた伊月の思いもよらない返事に、やった、と森山は拳を握った。
「………………帰らずに済んでよかった」
 伊月はぽつりと呟いた。






あとがき
自分で更新スピードに驚いた。
盛大なフラグです





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