Because



「あなたはどうしてバスケを続けるんですか」

つい1ヶ月ほど前に恋人となった自称天帝は、そんな尊大な物言いで生意気な口をきいた。

伊月はまたか、と溜め息を吐く。

勝ちこそ全てと言って憚らない赤司は、負けても、能力値が低くてもバスケをしている伊月が気になるらしい。

「好きだからだよ」

黒子と一緒だろ?
いつだってそう答えれば赤司は納得いかないという顔をする。
才能のない人間の考えなんて才能がある人間には分からない。
赤司にだってそれは分かっている筈だ。

なんだかんだと世話を焼いているうちに懐いた赤司は、何を思ったか伊月のことが好きだと言い始めた。

男同士だと言うと、そんなの関係ないと。
あなたを知りたい
そう言った真摯な視線と口調は、なかなかの口説き文句だった。

今ではすっかり絆されているからたまったもんじゃない。
まぁ主導権を握る積もりはないが。

うだうだと不満げな綺麗な顔をするりと撫でて、顔を寄せる。

「理屈じゃないんだよ」

ちゅ、と小さな音を起てて唇を重ねると、不満げな顔にもっと苦い様子が加わった。

「伊月さんはいつもそういってばかり」

拗ねた様子で駄々をこねるみたいに言う赤司は年相応に子どもっぽい。別に過大評価していたわけではないが、感情はわかりやすく表に出してくるので助かってはいる。

その素直な表情は、伊月だけに与えられた特権だ。

ふふふ、と笑う。こういう時に特別だという優越感を感じる。
この顔は洛山のメンバーやキセキの世代ですら見たことはないだろう。
こんな風にリラックスした赤司の表情など。

「だからさ」

伊月が赤司に手を伸ばせば、今度は意図を理解したのか赤司は素直に目を閉じる。
唇を合わせているうちに、途中で攻守が入れ替わる。

唇を舌で舐められて、小さく開いた隙間から侵入してくる。
先輩への一応の敬意か嫌だと主張すればやめてくれるが、あいにくそんな気にすらさせないのが赤司だ。

赤司からのキスに酔わされて、抵抗する気力すら起きない。
でもだからといってやられっぱなしは気にくわない。
たまに探る舌を押し返してやれば、赤司は面白そうに笑う。

才能の塊のような赤司と、鷲の目と努力でここまで上り詰めた伊月。

2人は真反対であるように見えて、実は酷く似ているような気さえする。

流れに任せるように、赤司に身体を預ける。
押し倒されて綺麗な赤色の瞳を見上げればどこか焦ったような困惑したような。

らしくない。

伊月は赤司に腕を伸ばしてその頬を両手で挟んだ。

「はにふるんでふか」

そのままぐにぐにしてやると、いつもの赤司からは考えられない間抜け面。
ふふふと笑ってやると赤司は不満そうに眉をひそめた。

「そう焦るなよ。…だからさ」

さっきまでしていた話を続けよう。

「赤司だって俺のことが好きなことに理由があるの?」

赤司の目が泳いだ。
意外と直感という不確実なものを赤司は信じる。「そういうこと」

好きだよ、と唇を寄せてやれば、ああもうと赤司は溜め息を吐く。

バスケも赤司も好きなことに理由はない。
つまりはそういうこと。




あとがき

赤月の日!(笑)
やっぱり懲りません。
赤司難しいです。今までに紫赤は書いていますが、紫原に対する赤司と伊月に対する赤司が違いすぎて。
伊月に対する赤司は伊月に頭上がらなければいいと思います。伊月は結構予想外なことしでかしてくれるので。振り回されてしまえ。
では、赤月の日おめでとう!


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