罪な恋人。
その日伊月がやってきたのは、別段珍しいことでもなく、寧ろ最近じゃよくあることだった。
だけど、なぜだか、
彼は違和感を感じていた。
なにかいつもと違うと。
2人で一緒に夕飯を取って、
2人で並んでゆったりと時間を過ごす。
何かと苦労事が多い桐皇にいると、こういう時間が本当に尊くすら思えてくる。
いつもならすり寄ってくる伊月は今日はぼう、と何かを考えているようだった。
「俺は」
伊月が言った。
俺は、と。
今吉さん、と伊月が彼を呼び、彼はココアを注いでいる手を止めて、ぼうっとテレビを見つめたまま動こうとしない恋人を見た。
今吉さん、とまた伊月が彼を呼ぶ。
「どないしたん」
ちゃちゃっと手早くココアを作り終え、ことりと伊月の前に置く。
「俺は、間違いなく今吉さんが好きです」
「ワシも伊月が好きやで?」
胸にクッションを抱き締めたまま、真っ直ぐにテレビを見ている伊月の身体を自分の方に傾けさせる。
どうしたん、と微かに震える身体を抱き締めると、花宮と伊月は違う男の名を呟いた。
「ん?」
「は、なみや…が……今吉さんは策士だって……俺は騙されてるんだって……」
あいつ、と舌打ちをする。
いつの間に伊月を懐柔していたんだ。
中学の時の憎くも可愛い後輩はやはり憎たらしい感情が強い。なんだかんだと分かり易いところは単純に愛しいというのに。
今吉のことは心の底から嫌いだと言って憚らない後輩はやはり敵だったらしい。
まぁええけどな、と今吉は息を吐く。
「伊月はこんなワシは嫌いか?」
訊くと伊月はゆるゆると首を横に振った。
「それでも…好きです。でも」
伊月は一度そこで言葉を切る。
「今吉さんは、嘘吐きなんですか?」
ああもう、かわええ。
伊月は今吉の本当が欲しいのだと言う。嘘吐きなんてものではないのだ、策士というのは。
策士は嘘など吐かない。嘘など吐く必要はない。全てが本当のことなのだから。
本当であるように仕向けるのが策士なのだから。
「嘘なんか吐かんよ。必要な時以外は」
だから、本当のことを言う。
それすらも、今吉を構成するひとつ。
「腹は真っ黒やけどね」
それ、自分で言いますか、と伊月が少しだけ笑みを浮かべる。少し強張った体がほぐれてきただろうか。
「いうてん。本当のことやしなぁ……今は、伊月を食べとうてしゃあないわ」
ぱくんと伊月の唇を自分の唇に含んでやると予想外だったらしい伊月は、ん、と小さく声を漏らしたあとに今吉の舌に応えてくる。
えろうやらしくなってもーたなぁ…
今吉が満足そうに笑うのに対して、伊月は自分の身体を這う手が少し不服らしい。少し寄った眉根にキスを落としてやる。
伊月を自分のものにしたい、伊月が自分を好きになればいい。
意外とじゃじゃ馬だった恋人は、今吉が策士だからだと言ってそう思い通りになるものじゃなかった。
でも、だからこそ。
いまだにじゃじゃ馬な伊月に振り回されてはいるけれど。
それが幸せだと思う位には、伊月に夢中になっている。
「嘘なんか吐いとる余裕あらへんよ」
今吉は、腕の中で喘ぎ悶える身体に小さくキスを贈る。
「好きやで、伊月」
伊月をつなぎ止めるだけで必死なんやから。
なんて罪な恋人。
あとがき
今月の日!(笑)
懲りない福耶ですww
なんか眠たい頭で書いているので、意味が分からない文章になっているような気がしてなりません。
策士な今吉さんが嘘をつけない位伊月が魅力的なんだってことを…書きたかったんです…
今月の日おめでとう!
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