Stress





日向は苦労性だ。

木吉の一件があった、その前、中学生の時からちょっとそんな気がしていた。

リーダーシップがある。それは、グループ活動を行うにおいて大切な資質だ。
それは学校や部活に留まらず、高校を卒業し、大学も卒業し、無事就職ができた今でも変わらない。

基本的に不器用だけど努力は惜しまない、一途に慕ってくるタイプであり、何にでも全力を尽くす。しかも、たまに子どもっぽくはしゃぎ、ノリもいい。
そんな日向が教員として就職した学校で慕われるのは当然で、生徒ウケは勿論、先輩の先生方にも可愛がられているらしい。

そんな日向は相変わらず何事にも全力投球。
帰りだって遅い。

教員の労働時間は8時間。朝8時に開始、夕方16時に終了。だけどその後には部活がある。
こっちは完全に慈善活動だ。
日向はバスケ部の顧問になっている。

9時か、と伊月はため息をついた。

丁度課題テスト明けらしく日向の帰りは今日も遅い。
課題テストならまだいいものの、既に数回体験した定期考査なんて酷いものだ。答案の持ち出しが出来ないらしく、その全てを学校で済ませる。
10時や11時を超えることだってざらだ。

教員がハードだと言われる所以は実はここにあったりする。

殆ど自由になる時間がないのだ。

身体大丈夫かな、と、伊月は時計を見上げて肘をつく。

倒れたりしなきゃいいけど。

その時、カチャリとそっと、鍵の開く音がした。更にドアが開いたらしく冷えた空気が部屋に入ってくる。
ただいま、と日向の声が聞こえた。

「ぉ、おかえり!」
「あーただいま」

ふぅ、と大きなため息はその疲れの度合いを示す。
余裕がある時なら真っ直ぐに着替えたり夕飯を食べようとする日向は今日は真っ直ぐ座卓に向かい、冷えた身体を温め始める。
こういう時はかなり疲れている。日向の行動パターンだ。

伊月は日向が座り込むのとすれ違うように立ち上がり、台所へと向かう。

疲れた時には味覚が麻痺する。

いつもより濃く、しかも甘めになるようにコーヒーを淹れる。ココアを淹れてもいいがあいにく日向はそこまで甘党ではなく、どちらかというと辛党だ。

食欲はあるだろうか、とそれは様子を見ながら考えようと、自分の分のコーヒーはいつもと同じように淹れた。

炬燵に潜り込み、半分寝たような状態の日向に甘いコーヒーのカップを差し出せば、悪い、と小さな声が帰ってきた。
そろそろとコーヒーを啜る日向を眺めて、軽く夜食程度にうどんにしとくか、と立ち上がる。

日向が遅いとわかっている日は仕込みまで済ませておく。
数分ですべてを終わらせて座卓へ戻れば日向はうとうとと舟を漕いでいる。

「日向、起きて」

食事はとらないとホントに身体壊しちゃう、と苦笑しながら日向の肩を揺らせば「ん」と小さく呻いて薄く目を開き、いただきます、と小さく言ってもそもそと麺を口に運ぶ。
なんだか小さな子どもみたいだと伊月は笑った。

医学部所属のため、未だに学生の伊月に対して、社会で立派に働いている日向。それでも、まるで子どもみたいに甘えてくる。

「ごちそうさま」

ずるずるとスープまで飲み干して、ほっとやっと日向は息をつく。
なにかを口に入れたことによって目も少し覚めたようだ。

食べ終わった後の食器を片付けて、炬燵に座ったままの伊月の横に入り込む。
狭い、と少しズレた伊月を日向の腕が止めた。

「伊月ー」
「ひゅう…が!?」

完全に油断していた。
力を入れて抵抗するまもなく、後ろに倒される。

「伊月」
「ったぁ…なに、日向」

反射で閉じた目をあけた瞬間、耳元でちゅ、と音がした。
なに、と声を上げる前に今度は唇を塞がれる。

「…っ、は…、…日向…?」

伊月が組み敷いた日向を見上げれば、日向はまるで電池が切れたように伊月の胸の上に倒れ込む。

え、
と思った時にはもう、日向は規則的な息を漏らして目を瞑っていた。

その目の下には微かに隈。
必死に動きまわったらしい脹ら脛は浮腫んでぱんぱんだ。

仕方ないな、と伊月は眠る日向の抱き枕を甘んじて受ける。

頑張れ、日向先生。伊月は眠る日向の頬にひとつ、唇を落とした。
Nonstress




日月企画『Sol*Luna』様に提出です。
素敵企画に参加させていただきありがとうございました!

日月の日に未来話っていうのもどうかと思ったのですが、日向の行動パターンを知り尽くしている伊月を書きたくて。
疲れてる時はこうするって理解している良妻な伊月を書きたくて。
お粗末様でした。日月の日おめでとう!


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