ひなたぼっこ
「おや」
丁度お昼すぎ。
執務に追われる中やっと休憩に入れると執務室に戻っていたジャーファルは中庭に人影を見つけた。
短い金髪に、白いだぼっとした服。遠くから見てもわかる。
アリババだ。
何をしているのかと見ていると、かくりとその頭が落ちる。
「ん?」
またかくり。
どうやらうたた寝をしているようだ。ふっとジャーファルは小さく笑い声を零し、音を起てないように気配を殺してアリババの元へと向かう。元より気配を殺すのは得意だ。
そっと近くに寄り、アリババの座るベンチの横にできるだけ近く座る。近くでアラジンとモルジアナが遊んでいて、ジャーファルを見て叫び出しそうになった所を唇に人差し指をあてて制す。
わかったという風に二人はジャーファルの真似をして唇に人差し指をあて、顔を見合わせる。その姿は年相応に可愛らしい。
こくりこくりと船を漕ぐアリババは、寄りかかれる場所を見つけたとばかりに、落ち着いてジャーファルの肩に頭を預けた。
アラジンとモルジアナが、あっちで遊んで来るとジェスチャーで伝える。
それに、笑顔で手を振ると二人も手を振りかえした。
ジャーファルの肩には金糸が舞う。寄りかかれるようにして眠るアリババは可愛いものだ。
まだ昼休憩の時間は充分にある。ジャーファルもまた、愛しい恋人を見下ろし、その頭に寄りかかった。
落ち着く香りがした。
ふわふわと心地よい温かさに、すぅ、と落ち着く甘い香り。
嗅ぎ覚えのあるそれは、実に馴染んだ香り。大切に大切に守っていきたいほどの愛しい想いと共に、この香りを抱き締めるのが好きだった。
それに導かれるように、重い瞼を持ち上げると、目の前に見えたのはシンドリアの王宮の中庭の芝生。
ふっと手を上げてみれば、自分の身体には薄手だが温かい毛布がかけられていた。
と、とん、とアリババの肩に重さが乗った。
アラジンかと見てみれば、肩口に見覚えのある白髪が流れて、思考が停止した。
いやそんな、まさか、この人がこんな所にいるわけが。
自分の目を疑ってみても、その人が消えていなくなるわけではない。
ジャーファルがこうやって眠っているのも珍しい。一緒に眠ったとしても、アリババの方が先に眠りに落ちるし、次の日なんか何時に起きたとしてもジャーファルは目を覚まして身支度を整えてアリババの目覚めを待っている。
無防備に眠っている姿は新鮮で、新しい面を見たような気にさえなる。
アラジンとモルジアナがいないが、またどこかに遊びにいったのだろう。ずっと見ていないといけないほど二人とも子供ではない。
どうせなら、こうやっていつまでもジャーファルの寝顔を見ていたい。
しかしそうも言ってられないことに気がついた。
「っ!仕事!ジャーファルさんお仕事大丈夫なんですか!?」
「ん、え!?」
流石ジャーファル。
仕事という単語に寝起きだと言うのにばっちり目を覚ましたジャーファルは今何時ですか!?と叫んだ。
日の傾きから察するに恐らく、休憩の時間はとっくに過ぎている。
こうしてはいられない!とジャーファルはすぐにシンドバッドの政務室に向かった。
そんな焦った様子のジャーファルに思わずアリババもついていく。
ばぁんと勢いよく開けられた扉に、シンドバッドが驚いた顔をした。
「申し訳ありませんシン!うたた寝してしまいまして!すぐに仕事を…」
まくしたてるジャーファルに、あっはっはとシンドバッドは朗らかに笑った。
「気にするな、ジャーファル。せっかくだからお前は昼から半休を取ってしまえ」
「……は?…いえ、しかし仕事が……」
仕事が、仕事が、と譫言のように繰り返して困った様子のジャーファルに反してシンドバッドは笑った。
「大丈夫だ。半休すらお前がいなければ政務ができないほど俺は落ちぶれちゃいない。せっかく落ち着けるのならば、アリババ君と二人、ゆっくりと休めばいい」
「………はぁ」
半休を言い渡されたものの、ジャーファルの表情は未だに困惑しているようだった。二人で部屋に戻りながら、もしかしたら毛布をかけてくれたのはシンドバッドだったのではないかと考える。
だから、ジャーファルがうたた寝していたことも気づいていたのかもしれないと。
それなら元より、休ませるつもりだったのでは。
「…暇ですね」
「そうですね…」
黙ったままのジャーファルに声をかけてみれば、返ってきたのは生返事。仕事のことが気がかりなのかもしれない。
それなら、と、ジャーファルの部屋に着いて、中に入った所で、ジャーファルの胸に飛び込んだ。こんなの初めてだ。恥ずかしい。
「ジャーファルさん」
赤くなったであろう顔を見られたくなくて、その胸に顔を埋めたまま、彼を呼んだ。
「今日は、沢山甘えてもいい日ですか?」
駄目だと言われたら立ち直れないかもしれない。
好きな人にこんなことをするのは恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。
はぁ、とジャーファルが溜め息を吐く。
びくりとアリババの身体が震えた。
「いいですよ」
困ったように笑いながら、彼が言う。それが嬉しくて、嬉しくて、アリババは、抱きついたまま、引っ張るようにしてジャーファルと二人大きなベッドに転がった。
あとがき
どうしても書きたかったので。
でもここは黒バスサイトですし日記にこそっと置いていきます