赤ずきんちゃん


昔昔、赤ずきんちゃんがいたそうな。
可愛い可愛い赤ずきんちゃん。
お母さんのお使いで病気のおばあちゃん家に行くことになりました。
それから。それから。


「…は?」
寝ている所を起こされた宮地は、玄関の扉を開けて呆然とした。そこにいたのは、今日は普通に学校も部活もあっただろう伊月俊。紛れもない宮地の恋人だった。
「…お前、学校は」
「とっくに終わりました」
そう言われて時計を見てみると、確かに。20時も回って部活も終わっていることだろう。しまった、電気つけたまま寝てしまったと自分を叱咤して、宮地は痛い頭を抱える。
「宮地さん、俺ちょっと怒ってます」
「あ?」
そう言われてみれば確かに少し不機嫌そうだ。何か約束していたかと思い返してみる。
みたが。
「…すまん」
思い立った。
そういえば今日は伊月が泊まりに来る約束があった。いやしかし、それは解決したことだった気がする。
宮地は今日は無理になったとメールしたはずだ。それに伊月も仕方ないです、と返事をくれた。違っただろうか?
いや、そのはず。
「何が悪いのか分かってないでしょう?」
「…すまん」
とりあえず中に入れてください、と、伊月は宮地が返事をする前に彼が下宿として借りている部屋に上がり込んだ。
止める暇もない。いや、止めることもできただろうが、身体が動かなかった。
伊月が部屋に入ったのに続いて、宮地も自分の部屋に入る。
さて、と伊月は宮地をカーペットに座らせた。
「何度ですか?」
「は」
「熱は何度位だって訊いてるんです。ぶちのめしますよ」
「……39」
怒ってる。いつもなら言わないであろう荒い言葉づかいに思わず息をのむ。いつもそういった言葉を使うのは宮地のほうで、何故だか怯んでしまった。
言われる方はこんな気分なのか。
「高いですね。…あのですね、宮地さん」
「はい」
宮地は身体を緊張させる。
「偶然高尾から宮地さんは風邪で寝込んでるって聞かされた俺の気持ちわかりますか」
「……はい」
伊月なら心配して来るだろうと思ったから、風邪だとは言わなかった。用事だと伝えた。
伊月にうつしたくないと思った自分の気持ちを分かってくれと言うのは我が儘だろうか?
「………」
「…………」
じっと伊月に見つめられて、思わず視線を逃がす。そんなに見つめられても。
はぁ、とため息をついて、仕方ないと伊月は立った。
「もういいから寝ててください」
どうせ何も食べてないんでしょう。そう言って伊月はカバンの中からエプロンを出す。着ている服はシンプルな私服。それにしては、大きなバッグにちょっと嫌な予感がする。
「俺の予定に変更はありません。今日は宮地さんちに泊まっていきます」
「ばっ!?お前な!?何のために」
「知りませんよ」
伊月が硬い声で言った。
「誰のためとか、何のためにとか知りません。俺は俺の為に宮地さんが心配だからここにいるんです。明日俺が風邪引いたとしても俺の責任です。それに、」
続く言葉は震えていた。宮地に背を向けて、ちらりと見える耳は赤く染まっている。
俺だって少しでも宮地さんと一緒にいたいんです。

「伊月さ」
「帰りませんよ」
伊月が作ってくれたお粥を口に運んで、宮地は蓮華を噛む。
伊月はこうなると梃子でも動かない。
頑固なやつだ。宮地が言えることではないが、お互いに厄介な性格をしている。
「帰れ」
「帰りません」
「ひ」
「轢きますか?望む所です」
「…お前な」
はぁ、と大きなため息をつく。どうやったらこの強情は帰ってくれるんだ。
「俺の立場になって考えくれないか」
「宮地さんの立場で考えたらこうなりました」
「いやいや」
どう考えたらそうなるって。
もう、痛い頭が更に痛くなりそうだ。
「それとも、宮地さんは俺が迷惑ですか」
「………今この状況下で言えば迷惑」
そう答えてやれば伊月が一瞬泣きそうな顔をした。しかしそれは、本当に一瞬。
だって、どうしろって言うんだ。うつしたくなくて風邪でだということを言わなかった。伊月に心配させたくなくて、寝込んでると言えなかった。どうしろと。
「……宮地さんが嫌って言っても、いますから。俺」
「………もう勝手にしろ」

夢を見た。
確か伊月の作ったお粥を食べたあと、薬を飲んで眠った。
遠くなる意識のなか、伊月がお風呂と服借りますねと言っているのを聞いた。
そのまま意識はなくなって、俺は夢を見た。野原と木々が俺を取り囲む。
目の前には赤い、赤い。

ぼやっとした視界。
頭が痛い。
身体もなんとなく怠くて、何をする気にもならない。
「…宮地さん、起きたんですか?」
なかなかはっきりとしない視界に、伊月の顔がやけにはっきりと入り込んだ。
見覚えのある赤いパーカーは確か宮地のものだ。
「…伊月?」
暗い部屋に、オレンジ色の光がちらちら。伊月の顔を照らす。
「はい。伊月ですよ」
「……」
無言のまま、伊月の頬に手を伸ばす。するりと滑らかな感触を感じて、そこに確かに伊月がいることを確かめる。
ああ、そういうことか。
やっと伊月が自分の元に来た理由が。宮地の立場になったら来ていたという伊月の言葉の意味が。やっとわかった。
ふふふ、と伊月が微笑む。
愛しい。そう思ったときには身体が動いていた。
宮地を除きこむい伊月の後頭部に腕を回して、一気に引き寄せると唇と唇がぶつかった。そのまま長いキスになだれ込む。
「ん、んんっ!宮地、さ…!?」
どん、と伊月が宮地の胸を叩く。
頭が痛い。身体が熱い。理性なんかきくもんか。目の前にいるのは美味しそうな美味しそうな、愛する恋人。
ああもう、一応帰れとは言ったからな。


病気のおばあちゃんだと思ったら、恐い恐い、狼さん。
優しい赤ずきんちゃんは食べられてしまいましたとさ。
それでもいいかもしれない。ふたりが幸せなんだから。


あとがき

読んでいただきありがとうございました!!
リク主、もち様のみお持ち帰り可です。

キタコレ。すいません。病気です。

特に指定なしに宮月ということだったので自由に書かせていただきました。
まだフリリク終わってないのに気が早いですかね(笑)
ご意見、気になるところ、誤字脱字等ありましたら、遠慮なくお願いいたします。
また来ていただけると幸いです。





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