これからそれから




「ばいばい、赤ちん」
「ああ。またな」

新幹線の駅のホームで、分かりやすく肩を落としている紫原を、赤司は仕方ないやつだなと笑う。
別れるわけではない、また会える。
そう何度も言い聞かせた。だというのに、紫原は変わらない。
自分に会えなくなる、自分と一緒にいたいと駄々を捏ねる。
そういう彼だって、自分と離れるかの如く秋田に行ってしまうというのに。

また会えるさ

そう言って笑ってやれば、紫原はわかりやすく拗ねたようにじとっとした目で赤司を見つめた。
その様に苦笑する。

「じゃあ、敦。次は試合で」
「…うん」

新幹線の発車を知らせるベルが鳴る。
赤司が右手を差し出せば、紫原はそれをしっかりと握りしめた。
恋人としてではなく、仲間としての握手。きっとまた、コートで会おう。

「…赤ちん」
「…」

今度は恋人として。
紫原が身体を屈めてきたから、赤司はそれに合わせて少し爪先を立てる。ふ、と唇が触れた。

無粋な出発を急かすアナウンスに、赤司は時間だと笑う。

名残惜しく最後の最後まで繋いだ手は、閉まる新幹線のドアに完全に離されてしまう。

別に今生の別れではない。携帯もネットも発達して、遠恋も難しくはなくなった。だというのに、紫原は変わらず赤司を求めて愛しい。
次会うのはIHだ。

中学時代を共に過ごした仲間は紫原の他には彼の見送りに来なかった。
仕方ないか。
しかし、彼らとも、きっとまた、試合で顔を合わせることになるだろう。

もっと、今までよりも強くなった未来で。
楽しみだと、赤司は唇に笑みを乗せた。




回りの誰よりも早く、大学の合格通知が届いた。
成績優秀、敗けですら殆ど知らない赤司が受からない大学などあるわけがなく、勿論のこと、推薦で大学は決まった。
赤司自身、それに不満はなかったから推薦も受けた。

あえていうなら、初めから受かることが前提でそこを受けさせてくれなかった教師には閉口したか。なんとも頑固なやつだ。
そこに受かったと言う称号が欲しかっただけだろう。全く浅ましい。

高校の3年間を、洛山で過ごした。
京都に思い入れがなかったわけでも、高校時代を共に捧げた人間たちに未練がなかったわけでもない。
これからは高校の時のようにまた顔を合わせる機会があるかすら分からないのだから。
でも、赤司は東京に戻ることを選んだ。

秋田にいた恋人も、高校を出るのと同時に帰ってくるそうだ。

IHも、冬のWCも、顔を合わせた。
戦いの舞台。そこには、成長したかつての仲間がいた。昔とは違う仲間がいた。
毎年、当然のように。

昔の記憶に想いをはせながら、赤司は外の風景を眺める。京都から東京への新幹線から見る風景は、次々と変わっていく。

やがて、ビルや建物が増えていく。
もうすぐ、東京につく。



アナウンスが響く。広いホームのその真ん中に、2メートルの身長は些か高すぎた。サプライズなのかなんなのか。
来るとは聞いていなかったから恐らくサプライズなのだろう。
しかし、新幹線がホームに入って、まだ動いているというのに、沢山の人混みのなか明らかに一人、存在が浮いている。

そんなことにも気づいてないらしい恋人の、自分を探しているらしいきょろきょろと辺りを見回す様子を静かに見つめた。
連絡もせずに。もし見逃したらどうするつもりだったのか。
しかし紫原の場合は見逃す方が難しいだろうか。可愛いやつだなんて普段なら思いもしないことを思って唇が笑ってしまった。

もう3ヶ月か。
思ったより普通だと感慨深くもなく思ってみるとなんのことはない。そう言えば一昨日も通話した。

「紫原」
「赤ちん!」

新幹線から降りて赤司に向けていた背中をたたくと、紫原は嬉しそうな声をあげて振り返った。
それから、ちょっとだけ拗ねる。

「折角驚かそうと思ったのにー…赤ちんが見付ける方が早かったね」
「そうだな」

そりゃあね、と言うところを飲み込んで笑ってやると、紫原が手になにか持っているのに気がついた。

「敦?なんだそれは」
「あ!そうこれ!!」

ばさりと、それを胸元に押し付けられる。紫原が持っていたからか小さく見えたそれは、赤司が持ってみると標準サイズだった。
強い臭いが鼻をくすぐる。

「あかちん、おかえり!」

色とりどりの花束を、胸の前に持ってきて、紫原はそれこそ花のように笑う。
いや、これはさしずめ、花というよりもその妖精だなと大学生になったはずの恋人を見やる。
まったく、こういうところは昔から変わらない。
なんて苦笑しても、赤司自身昔から紫原のこういう所が好きだから説得力などない。

「赤ちんかえろ!」

紫原が手を差し出す。
体格もさることながら、紫原の手は大きい。
下手したら潰れてしまうのではないかという手を、赤司は躊躇うことなく握った。

まだ人の目が多い。
普通なら人目を避けるのだろうが、赤司と紫原には他人の視線などどうでもいいことだ。そもそも、普通の身長の赤司と規格外の紫原では並んで歩いているだけでも視線を集める。
それが、増えることなど別段気にする必要もない。好奇で見られることにはかわりないのだ。

紫原とふたり、帰路につく。
今日からは、同じ家路につくことになっている。
そこは、ふたりの城だ。

朝はおはようとおきて、
行ってきますのキスをして。
夜はただいまのキスと
おやすみを言って。
顔を見ることが少なかったからか、そんな普通のこと、寧ろ、回りからは甘ったるいと思われるようなことがたまらなく幸せにすら思う。

さぁ、これからが彼らの幸せ。


あとがき

40000hitありがとうございます。
菓子丸様リクエスト、紫赤です。
今回のテーマは「キミ」「花」「握手」「おやすみ」ということで。こんな感じになりました。
菓子丸のみお持ち帰り可です。
またよろしくお願いいたします





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