目病み女と風邪引き男
綺麗だな、と、日向は自分の上で揺れる肢体と、その乱れる様子を見て思った。
お互いに大胆に、熱い体を絡ませ合った情事を終えて、日向は隣に眠る伊月の頬を撫でた。
情事の名残か、それとも、後処理の際の名残か、未だ火照っているのであろう体に薄い布を巻いて、熱を逃がそうとしているかのように、こんこんと伊月は眠っている。
その目元が微かに赤くなっているのは果たして、泣いた跡なのか、頬の火照りか。
どちらでもいいが、とろんと焦点の合わないようすの瞳と、赤くなった頬は、日向の情欲を煽るには充分すぎた。
女でもないのに女のように日向の動きに合わせてその肢体はゆるゆると揺れる。
伊月に女であることを求めたことはないのに、女よりも綺麗だとか、可愛いだとか、そんな感情に支配されて、その軟らかくもない体を掻き抱く。
ひゅーが、ひゅーが、と舌っ足らずに呼ばれる名前ですら、男の低い声が裏返ったそれにのるとなんとも言えない焦燥に駈られて、酷く抱いてしまう。
放したくない。
放れるな。
首の後ろに回った腕が、どうしようもなく愛しい。
まだ学生だというに、愛を知った、なんて言ったら周りの大人たちはどんな風に笑うだろうか。
眠っている伊月の、赤く染まった目元に、そっと唇を寄せる。
うん、と伊月が微かに呻いた。起きるかと思えば、重そうな瞼をすこしだけ開いて、ひゅーが?と彼を呼んだ。
ん、と返事を返してやると、ふわりと伊月の表情に笑顔が灯る。
日向に向けられたそれに、彼は思わず息を飲んだ。
目元を赤くして、微笑むその様子が、可愛いと思わないことなどできない。
伊月は、瞼を微かに開けただけで、また重たそうに眠りについてしまった。
伊月の右手は、しっかりと日向のシャツを捕まえていた。
しっかりしろよ、と伊月が呆れる。
お前はキャプテンだろ。と。
そうだキャプテンだ。だからこそ、ここで倒れるわけにはいかない。
ごほ、と1つ咳をおとして日向は伊月の片腕に捕まる。伊月の方が体つきは細いというのに、どういうことだ。
とそれもまた、日向には我慢できないことなのだろう。
伊月はふぅと1つため息をついた。
「日向今日はもう休み」
「はぁっ!?」
「当たり前だろ!?そんな状態でバスケするつもりか!」
実は朝から気がついてはいた。
いつもと日向の様子が違う。どこか怠そうにしているのに、いつもと同じように振る舞おうとする。
日向はカントクと伊月が、日向の様子に首を傾げていたことを知らない。
つまり、朝から調子が悪かった、ということは日向自身も気づいて、それでいて隠して部活に参加していたということ。
まったく世話が焼ける。
「お前馬鹿か!俺は主将なんだぞ!?」
「お前こそ馬鹿だろ、主将が倒れてどうすんだ」
あと俺、副主将だから。と言ってやれば日向は大人しくベンチに横になった。
ごほ、また重たい咳が落ちる。
「はやく治せ、馬鹿」
「馬鹿馬鹿うるせぇ馬鹿」
「今日送っていくから」
この馬鹿。
それはもうすでに自分のなかでは決定事項で、強く言えばまた強気の返事が帰ってくる。
そうさ俺は大馬鹿だ。
何よりも、バスケよりも日向が大切なんだ。
帰ったら馬鹿の我が儘いっぱいきいてやろうじゃないか。
だからさっさとよくなれこの大馬鹿野郎。
あとがき
40000hitありがとうございます!
大変お待たせいたしました!
リクエスト主のするめ様のみお持ち帰り可です!
遅くなってしまって本当に申し訳ありませんでした!
さてはて。
今回の「目病み女と風邪引き男」というタイトルは文学的表現らしいですよ。大学の先生に教えていただきました。私は習ったことないですが、普通習うんですかね?
くわしくはぐぐってください。
それでは、遅くなって申し訳ありません。
ご意見、ご感想、誤字脱字なども受け付けております。あ、返却も可です!
またよろしくお願いいたします