2 | ナノ


「孝くん、女の子をとっかえひっかえするものじゃないわよ?いつかなにかあったとしても知らないんだから」
「そうですよ、森山さん。女の子は怖いですよ」
「ちょ…っ!伊月まで!!」
やっと店員のノリに慣れてきた頃には、伊月も一緒に森山をからかって遊べる位になっていた。酒も入っていないのに、2人と店員で話しているそこの笑い声は他に人もいない店の中に満ちる。
「そういえば、森山さんバイトとかされてるんですか?」
「え、」
「してないんですか?」
 あれ?と首を傾げる。さっき稼いでるって聞いたけど。
 それなりにこういうの見るととりあえず伊月やってみる病気生活されてるからてっきり、そう言いながら伊月は冷たいお茶をくちへと運ぶ。特に軽蔑はしない。大学での勉強に集中するため、とバイトをしてない人は多い。しかし、伊月はそろそろバイト決めなきゃ、と丁度探しているところでいいところがあるのなら紹介して欲しかったのだが。
「いやいやそれがねぇ月ちゃん」
「ちょ!奥さ…うわっ」
「わぁ!?」
 何か言おうとした店員を止めようと立ち上がった森山の腰がテーブルを揺らし、倒れたお茶のグラスが料理を水浸しにしていく。焦ってそれを止めようと立ち上がり、店員が持ってきた布巾でテーブルを拭こうとしたら今度は反対の肘が別のグラスを倒した。
「ぅわっ、つめた…っ!」
「伊月!」
盛大に倒れたグラスは割れないまでも半分以上残っていた水が伊月の脚へと零れる。
「俺は大丈夫ですけど…どうしましょう、これ」
 伊月が濡れたジーンズに布巾を当てながら苦笑した。

「伊月、上がって」
「お邪魔しまーす…」
 服が濡れてしまって、少し遠い伊月は森山について、店から近かった森山の部屋に向かった。
 初めて来た森山の部屋は、男子大学生に相応に、健康的なくらい散らかっていた。母や姉の影響で整然と片付けられた伊月の部屋とは違う。日向の部屋程雑然としてはいないが。
「俺のジーンズじゃでかいよなー」
「ちっちゃいって言ってますか」
「可愛いって言ってる」
 聞き捨てならない言葉に食いつくと思いもよらない言葉が帰ってきた。男に可愛いって言うのはどうなんだ。喜んでいいのか悩んでいると頭の上に森山の手が乗った。
「ほい。これ着とけ」
 ぽい、と半パンとシャツを渡される。半パンはまだしも何でシャツ、と見上げると、その上じゃ半パン合わないだろ、と笑われた。
「ジーンズ乾かしてる間にちょっとコンビニ行こう」
 悪いから、何か奢らせて。
 そう言って苦笑した森山に、そんな、と返すとね、と押し切られた。親切は押し付けるものじゃないですよ、と言いたい所を呑み込んで、その親切に甘えることにする。何かしたいんだろうと思って。
「じゃあコーヒーゼリー、奢ってくれませんか」
「え、そんなのでいいの?」
「そんなのじゃなくて美味しいですよ。お勧めです!」
 朗々とその美味しさについて語る伊月に、森山が苦笑を漏らす。意外だった。冷静にゲームを作り上げ最良を判断する伊月にこんな一面があったことが。勝手なイメージではあったがもっと冷静だと思っていた。
 これはこれで可愛い。
 森山は改めて思った。好きなものを子どものように語る伊月が可愛いと。性別なんか気にもならなかった。
「じゃあ、俺も伊月お勧めのコーヒーゼリーを食べてみようかな」
 そう言われて、伊月は我に返った。なに語ってるんだ俺は。取り乱して、恥ずかしい。
「あっ、あの、森山さ…」
「行こう、伊月」
 手早く伊月の濡れたジーンズを物干しに下げ、森山は先を歩いてコンビニへ向かう為に玄関に立つ。伊月も手早く着替えを済ませて森山を追った。





あとがき
まだ続くかな?



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