3 | ナノ



「はー…美味しかった。ありがとうなー伊月くん」
「いえ、お口に合ってよかったです」
 食事を終えて絨毯の敷いてあるフローリングに2人並んで座り込む。
もうすぐ冬になるこの気候で、森山の濡れた手は微かに急速な渇きを見せ、冷たい空気に冷えた。食事をいただいてしまった手前、なにもしない訳にはいかない。こんな事しかできないけど、と、伊月の制止も押し切って台所の片付けだけでもさせて貰った。
そわそわと落ち着かな気に台所の様子を窺っていた伊月は逆に休まらなかったかもしれない。
「よく食べましたねー明日の分まで作ってたのに」
と伊月はそう言うが、元々彼の食が細いのか、今時の大学生が2日持たせるには少ない位だった気がする。それでも、2日分食べれてしまった。申し訳ない。
「伊月くん料理上手いね」
「いや、そんなことは…俺は普通です」
「いやいや、充分だよ」
 そう笑うと、そういえば、と伊月が顔を上げる。
「森山さん料理されないんですよね?まさかこの2年外食ばっかりだったってことは…」
「あー、それはないけど」
「じゃあどうされてたんですか?」
正直、この話をするのは躊躇われた。大学の友人にも言ってなかったことだ。でも何の気もない、敢えて言うなら森山を心配した様子で尋ねられて思わず口が勝手に動く。
「俺ね、モテてたの」
「…は?」
突然のカミングアウトに伊月の反応は当然だった。自慢ですか、と伊月が少し拗ねる。その様子に男でも綺麗な顔のやつがこういうことすると可愛いなーなんて不謹慎なことをなんとなく思いながら、違う違うと手を振った。
「高校の時はそうでもなかったんだけどね。みんな顔目的だから密な恋愛なんてしなかったけど、俺モテてたの。大学入学の辺りからそんな感じで、次から次に彼女できてたんだけど、…ここ3ヶ月?彼女なんてできないんだよね」
正直、2人前の彼女が半年と長く、それなりに情も抱いていたからかもしれないとは思っている。前の彼女は別れる時に誰を見てるの、と悲しげだった。その彼女も2週間程で終わってしまった。
「つまり、その恋人さんが作ってくれてたわけですか」
伊月が呆れたように溜め息混じりで言い捨てる。それに対して、森山はそう、といいながら苦笑するしかない。当然のことをしている。
「そ。まぁそんな感じで生活してたから、料理できないわけだ。これが」
そう締めれば、伊月はもう一つ大きなため息を吐いた。





あとがき
今回短くなりました。
第一章終了です。




[back]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -