2 | ナノ



「どうぞ、温めるんで待っててください」
「…おじゃまします」
 着いてきてしまった。
 いや別に情けないとか、そういうことを思わないわけじゃないんだ。ただそう、久しぶりに添加物が少ないごはんを食べたくなっただけでありそれだけだ。
誰も非難する人などいないというのに森山は自分自身に言い聞かせるように言い訳をする。
ここで初めて顔を上げると、生活感を感じる部屋が目の前に広がった。一人暮らしだと言う伊月くんの部屋は森山の部屋とあまり変わらない。適度に散らかった男の部屋だ。机の上にも勉強に使ったのかいくらかの資料が散らばっている。
無性にほっとする部屋だ。
所々に垣間見えるシンプルだがお洒落な小物は、訊かなかったが伊月の彼女が持ち込んでいるのだろうか。
「森山さん」
「んー?」
「シチューとか大丈夫ですよね?」
「うん」
伊月が鍋に残ったシチューを温めながら、話しかけるが、森山は部屋の観察に忙しいらしく、生返事が返ってくる。
もう苦手とかでも知りませんからね、と思いながら、伊月は軽く気泡ができる位まで残り物のシチューを温めた。
ご馳走になる身で部屋を不躾に歩き回り、本格的に観察を始めてしまった森山は、机の上に散らばった資料と共に写真が1枚、置いてあることに気づいた。そういえば、と顔を上げ、本棚を見やるとそこには2つの写真立て。片方には写真が入っていない。
 写真立てに入っている方には今からいくらか幼い伊月と、誠凛の2年だった見覚えのある顔が見え、手元の写真には対戦した時に顔を合わせた人間と、数人の知らない顔。
ああ、そうか
 そういえば、伊月はまだ卒業からいくらも経っていない。強豪と呼ばれる、以前トリプルスコアで負かされたという相手を乗り越えた誠凛の繋がりは想像もできないものだろう。
 森山は納得した。同時に、まだ誠凛が恋しいのであろう伊月が妙に愛しくなる。
「…あ!なに見てるんですか!!」
「いいじゃないか」
森山が伊月の心境を微笑ましく、また、1年前に過ぎ去ってしまった過去の自分と重ね合わせ、唇に微かな笑みを浮かべたときだった。
 大きめのお皿にシチューをなみなみとついだ伊月が写真を眺める森山に気がついて慌ててお皿を置いた。まぁまぁ、と苦笑しながら自分の知らない、まぁそもそも密な関係があったわけじゃないが、可愛い後輩をからかうように笑う。
 伊月の身長は男性の身長としては普通。対して森山の方は高めで、軽く手を上げるだけでも伊月はとどけない。
「もう!返してください!!」
「え〜どうしよっかなぁ」
「さっさと食べないとシチューさげちゃいますからね。あと返して」
「ゴメンナサイ。調子に乗りました」
 一気に低くなった声音に思わず手に持っていた写真を下ろす。せっかく食べさせてくれると言うのだから食べなきゃ損だ。
 机についた森山は丁寧に両手を合わせる。これだけは欠かせない。彼の習慣だ。
「いただきます」
「どうぞ」
森山に続いて、笑いを含んだような音で伊月の声が言った。顔を上げてみると、やはり伊月は微かに口元に笑みを浮かべている。
「……うまい」
半ば恐る恐る、スプーンで口に運んだシチューはこの寒くなる季節に優しい暖かくてとろけるような食感と味。率直にうまい、と感嘆の声をあげてしまった。
「ホントですか!?」
「うん」
 久しぶりにありついた手料理が思ったよりも美味く、手が止まらない。思わず言葉少なに食べ進めてしまう。
そんな森山を、伊月は微笑ましく眺めそうやって夢中になって食べる様子を可愛いと思った自分に戸惑った。




あとがき
実は先行して支部にあげさせていただいています。
今回は書きだめしてるので一気に3Pですが、相変わらず亀更新です。



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