彼女の目に、俺はどう映っているのだろうか。 グリモア越しに書類整理をする彼女を見ながら考える。最近立て続けに依頼があったためか、またさくまさんがテスト期間であまりバイトに入っていないのも相俟ってか、分類されていない書類が山のように溜まってしまっていた。 惰性的にコーヒーに手を伸ばせば、大分前に淹れたそれは冷め切っていた。 「なまえさん」 「何ですか?」 己から発せられたのは小さな声であったが、彼女が聞き逃すことはない。書類の束から俺へと目を移した彼女は軽く首を傾げる。此方へ向けられる双眼とその仕草は小動物のようで、先日捜索を依頼された子猫をのそれを彷彿とさせた。 「コーヒー淹れて」 「わかりました」 「あと、」 「はい」 「少し休憩したら」 暫く書類と格闘していたのだから、そろそろ作業の効率も落ちてくるだろう。そう思い何気なく言った言葉に彼女が目を円くしたものだから、予想外の反応に此方もまた目を円くした。 「なに」 「あ、いえ……」 優しいなって、思って。 少し躊躇ったあと告げる彼女は、すこしバツが悪そうな表情を浮かべていた。その様子に自分はどれだけ非道な人間だと思われていたのだろうかと眉根を寄せた。が、普段の自分の態度――それも悪魔共に対するそれを見ているならばと考えると、すんなりと腑に落ちた。 「はい、どうぞ」 「ありがとう」 コーヒーの香りが鼻孔を擽る。ゆらゆらと立ち上る湯気を見ながら、彼女に礼を言えば、ちいさな微笑みが返ってきた。 ちくり、胸が痛くなる。 非道い人間だと言われることに抵抗がある訳ではなかったし、他人の目を気にすることはなかった。その、筈なのだが。彼女にまで、他人と同じように思われることに対しては、些か納得できない己が存在していて。自分の中に生まれた感覚に、苛立ちと妙なむず痒さを覚える。 もやもやする感情を払うように珈琲を啜れば、舌の先がぴりりとした。 120118 |