「――怖い?」



耳元で囁かれた言葉はぞわりと背筋を流れ落ちる。暗闇を恐れるのは仕方のないことであり、その元凶に其れを問われるのはなんだか不自然な気がするけれど、彼の機嫌を損ねる前にこくりと頷いた。素直に肯定の意を示せば、私から光を奪った張本人はそうかと呟いて頭を撫でる。

手のひらの大きさに安心していると、ぬるりと生暖かい舌で耳殻をなぞられ、ひっと短く息が漏れた。視覚を奪われているためか、他の器官が敏感になるらしい。ぴちゃぴちゃと音を立てて耳を舐めるその音に侵蝕される。我が身に降りかかる羞恥に耐えきれず、向かい合った彼のワイシャツを掴む手に力を込めれば、暗闇の向こうで彼が笑った気がした。




「ねえ、なまえさん」


耳を擽るテノールと吐息に下腹部がきゅんと締め付けられる。私がこんなにせつない気持ちになるのを彼は知っているのだろうか。

それにしても、彼は何をもってして、こんな仕打ちをするのだろう。やる気なさげに彼の首許にぶら下がるネクタイで目許を塞がれた儘では、彼の表情を伺い知ることはできない。しかし、これを外してしまえばきっと彼の機嫌を損ねてしまうだろう。

色々諦めた私が縋るように彼に身体を預ければ、満足そうに鼻を鳴らして。



「俺は、」



暗闇の向こう側で、



「君が好きだよ」



悪魔がまた、嗤った。




120116

墜とす為なら恥ずかしい台詞もなんのそのなアクタベさん
口調が分かりませんアクタベさん



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