「なあ、泣いとんの?」

「泣いてません」


嘘やん。
目ェ真っ赤やし、鼻水ずびずびいっとるで。

そう言い掛けてやめたのは、それを言ったところで彼女の傷が癒えない事を知っているからだろうか。優しすぎる彼女を泣かせた男を憎らしいと思う反面、羨ましいと思う。
おつむも下半身もゆーるゆるだった男の事を思って泣く彼女の背中をぽんぽんとさすれば、一瞬だけ泣き声が途切れる。えぐえぐと嗚咽を上げながら此方を見やる彼女の瞳は悲しみに濡れていて。不謹慎だが、綺麗だと思った。



「――泣けばええやん」

どうせワシしかおらんさかい。

そう付け加えて頭をぽんぽんと叩けば、くしゃりと表情を崩し、今度はわんわんと声を上げて泣き出した。せやねん。全部、吐き出してしまえばいい。嫌な事は全て洗い流してしまえ。そうすれば、明日にはいつもの君に戻れるだろうから。


ほら、何時もみたいに。ワシがちょっと、ホンマにちょっとやで、セクハラすればヒールの先でぐりぐりと踏みにじってきたりするやん。あと、べーやんとさくと一緒にカレー食べよ。他にもそう、あれや、買い出し行った帰りにアイス買お。ワシはバニラでべーやんはチョコのやつやで。そんときはきっと、みんな笑とるやろ。な。せやから。



「泣いたら、元気出してえな」


彼女の泣き顔はとても綺麗だけれど。やはり自分は笑顔が好きだと、そう思った。




120125



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