おまけ

柳と
〜爆弾投下〜




 ぎゅっ、と手を翻して強く握りかえされた自分の手と、柳君に押し倒されたような格好で覗きこまれている今の状況に、今更ながらどうしようもなく恥ずかしくなってしまい、視線をさまよわせる。この視線がダメなのだ。心臓に悪いどころではない。
 柳君のもう片方の手がゆっくり頭を撫でてきたので、結局柳君を見つめることになった。
 とても幸せそうな表情をしていると思う。柳君もだけど、きっと、私も。

「クラス分けなのだが」

 優しい手付きで頭を撫でながら、柳君はのたまう。
 目は伏せられていて、ちょっとほっとした。

「?」
「玉梓も頼みに行ったようだが、俺もな」
「え」
「確立としては非常に低かったのだが。所謂「駄目元」と言うやつだな。……だが案外言ってみるものだな。おかげで同じクラスになれた。ちゃんと、お礼も言いに行ったぞ」

 校長先生の言葉が指していた人物って、実は柳君だったの!?
 えええ、と目を見開いて、いたずらっぽく笑う柳君を見つめる。そんな行動をとったのか。
 柳君が?でも、思い出してみれば確かに校長先生がおっしゃった人物は、早妃にも当てはまるが、柳君にも当てはまるものだった。てっきり、早妃だとばかり思っていた。柳君が浮かぶはずもない。校長先生に何て言ったんだろう……。早妃なんて目じゃない位、も、物凄く恥ずかしい事を、言っていそうで、怖い。

「約二年と半年だ。もう、限界が近かったんだ」
「げ、限界って」

 何の。何の限界なんだ柳君……!
 柔らかな雰囲気から一変、再び開かれたその瞳にどこか剣呑な光がちらついているのは、気のせいということにならないだろうか。
 ヒヤリ、と背中を冷たいものが滑り落ちた。

「覚悟しておけよ、宙」


 半ばうっとりと囁かれた言葉。
 人選間違えたかもしれない。



親友達
〜実は筒抜け〜




 ムスッとしながらストローの先で氷をガンガン潰している目の前の親友に苦笑を禁じ得ない。
 ここに当の彼女がいたら、氷達が「やめて〜」と言っているとでも評するだろうか。

「早妃も納得したんでしょう」
「……嫌なものは、嫌」

 唸るようなその声にまた笑ってしまった。

「私は、露骨過ぎて笑えたけど」

 綾の言葉に、ガンッ、と氷にとどめの一撃をくれてやった早妃。それにしても、吸い口を塞いでいるとはいえ丈夫なストローだ。

「露骨!そう、物凄く露骨だった!肝心の宙は全く気付いてなかったし、ファンクラブに悟らせないだけの甲斐性は辛うじてあったけど」

 一旦言葉を切って、たぎる何かを息とともに吐き出す。

「中2から見過ぎなのよ……!」
「図書の貸し出しと返却もね、宙がいないと出来る限りわざわざ待ってるの。カウンターに出て来るまで。中3の時一度、わざと宙に差し出された本を横から受け取ってやったら」
「想像がつく自分が嫌……」
「これ以上ないほどがっかりした表情を見せてくれたわ」

 その時はちょっと面白かったのも事実だが、それはそれ、これはこれだ。
 結局、こうやって2人くだを巻くようなことをしていても仕方がない。宙が選んだのだから。柳も必死だったし。
 彼なら、宙の正体なんて問題にもしないだろう。宙は怖がっていたが、単なる杞憂でしかない。とうにそこを突き抜けている。

「でも、腹が立つ」
「上手く行きすぎてね」

 氷の受難は暫く続く。


レギュラー陣
〜ある人物の悲哀〜




「俺だけ蚊帳の外かよ……」

 柳が居ない部室の中、丸井の呟きに皆が一様にサッ、と視線を逸らした。
 確かに、丸井は全く関与することはなかった。いっそ清々しい程に。

「接点がなかったんだよね」
「ねぇよ!逆に、俺以外全員が関わってる方がおかしいだろぃ」

 その言葉にふむ、と幸村は手を顎にあてた。言われてみればそうかもしれない。レギュラー達の仲が悪いということは決してない。仲は良い、と思っている。しかし、四六時中べったりしている仲でもない。それぞれがいっそ年齢に似合わぬ程の、確固たる独立不覊(どくりつふき)の精神を持っていた。故に、レギュラー陣共通の知り合いが少ないのも事実。
 やはり、彼女は珍しい。

「……で、どんなヤツ?」
「似てる、のでしょうか」

 柳生の言葉に、ああ、とそれぞれ納得するものがあった。

「なんて言えば良いんスかね、優しいけれど、厳しい所もあると言うか」
「うむ。向上心もある」
「自分を持っとるのう」
「……苦手なものもあるけどな」

 皆の言葉を聞いていた丸井は不思議に思った。

「案外、普通?」

 あの柳が「メロメロじゃ」と信じられない言葉を仁王から聞かされていたので(そして、そんな柳を見てみたいと心底思ったので)、もっと「凄い」女だと思っていたのだが。

「何かは教えてくれなかったけれど、やるべきことを持っていて、それをちゃんと分かっている子だよ」
「……あ〜!なんで俺だけ蚊帳の外なんだよぃ。やっぱり悔しいじゃねぇか!!」

 会いてぇ!との丸井の叫びが叶うのは週明けだった。
 再び合同合宿の臨時マネージャーの話を打診され、柳以外からのしつこい程の勧誘を宙が必死にかいくぐるのは別の話。


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