27

居心地が……。



 切原君に英語を教える羽目になってから、ちょくちょく彼はウチのクラスに顔を出すようになった。そして今、何故か切原君と柳生君も混じえての昼食。救世主であるはずの親友2人は所用で席を外している。……綾に限っては面白がってわざと席を立った可能性が無きにしも非ずなのだけど……。
 話題が何故か小説であるが故に。

「ですから、私としましては航路をどのように拓くかが重要になってくると思うのです」
「ふむ。しかし、隣国との折衝も大きな課題として残っているだろう?」
「蓮二の言う通りだ。航路の前に、隣国問題がある」

 喧々囂々とまでは行かないが、議論は間違いなく白熱していた。そして、私は間違いなくここにいたら不味い。
 ラノベは結局、柳君の次に真田君もしっかり読んだ。こうなるとそれはもう、立海において現在進行形でバッチリ流行っていますとも。彼らに悪気は一切ないのだけれど、良い感じで嫌がらせになってしまっている。
 その上誤算だったのが、私の前でハムスターのごとく唐揚げで口をぱんぱんにしながら、幸せそうに頬ばっている切原君だ。国語が得意だとは……しかも、ラノベを読んでいたとは……。

「ひゃふら、ふ」
「飲み込んでから話せ」

 柳君が親御さんのように諭すと「ふぁい」と素直に返事をして、もむもむと咀嚼し、ごっくんと飲み込んでから勢い込んで話し始める。行動が子供だなぁ。

「だから、二つの問題を一気に解決するかもしれないから、主人公が情報屋を探しに行ってるんじゃないっスか!」
「そうですが、そう簡単にいきますかね」

 それが、行くんですよ柳生君。とは口が裂けても言えない。簡単にはいかないけれど、上手くはいくんだよ。いかないと話が破綻するんだよ柳生君。

「何とかなりますって。ね、宙先輩」
「え、ああ、何とかなるんじゃないかな……」
「では、青海さんはどのようにお考えですか?」
「ええ!?……え〜っと」

 作者にネタバレしろとおっしゃるか。思わず驚いた声を出してしまった。
 どうしよう……。適当に、当たっているような外れているような曖昧な事を言っておくべきだろうか。

「では青海は、航路と隣国問題、どちらを優先的に解決するべきだと思う?」

 柳君は言いよどんでいる私を見て、助け舟を出してくれたのだろう。「お前はどう思う?」と穏やかに聞いてくれているのだが、今その助け舟は泥舟と同じだ。助けるどころか凄い勢いで沈んでるから。撃沈してるから。

「……えと、どっちでもないんじゃないかな」
「何?それはどういう事だ?」

 思わずネタバレしちゃった……!皆さん、もうお気づきかもしれないが、私は「隠し事」が実は苦手なのである。必死に取り繕ってはいるが。私の発言を受けて、柳君は興味深そうにノートに何か書き込み始めたし、柳生君は怪訝そうに眼鏡をいじっている。切原君はきらきらした目でこっちを見てるし、真田君なんか、凄い食いついてきたんだけれどこれはどうしたら。

「な、なんとなく……?」
「何故疑問系なんだ」
「いや、あの、ぽろっと口から出ちゃっただけだから気にしないで……!」
「ふむ。何か別の糸口がある、と」
「う、う〜ん……。だいたいパターンと言いますか、「どっち?」って思わせておいて実は、って話があるから、今回もそうかなと……思いまして……」

 じ、っとこちらを見つめてノートに何か書き込み始めた柳君。何か、ぼろが出たかもしれない。背筋に冷たいものが走った。
 私が正体を知られたくない理由なんて、本当に単純なのだ。でも、単純だからこそ、もしそうなってしまった場合が怖い。……怖いよりむしろ、悲しい。

「先輩達も、そんな謎解きしてないで単純に続きを楽しみにしてれば良いじゃないっスか」

 切原君がにかっと笑って、ねぇ?と同意を求めてきたので、うん。と返す。「謎解きが面白いのですがねぇ」と柳生君が若干呆れ顔だ。そんな柳生君をよそに、切原君が突然大きな声をあげた。

「ああ!!そうそう!俺、柳先輩にコレ絶対話そうと思ってたんだ!」
「何だ?」
「続きの話のイラストが公開されてるって聞いて、サイトで見たんですよ。そしたら!」

 うわああああ、切原君ソレ駄目!その話題ちょっと、とにかく、駄目だ!担当さんとの打ち合わせの際に口車に乗せられちゃったやつだから!こんな事になるとは思ってなかったから!いつかはばれるけど、よりによって今!?
 しかし、私の絶叫は心の中の絶叫だ。悲しいかな、切原君には一切届かない。

「新キャラがいたんですよ!顔しか出てなかったけど、多分、あれ情報屋じゃないっスかね。その情報屋が柳先輩にそっくりなんです!!」
「ほう?」
「いや、何て言うか見た瞬間「あれ?柳先輩がなんでここに?」みたいな、とにかく似てるんスよ。髪型といい、その目といい」
「そうなんですか?」
「む。面白いな」
「…………」

 「なんか情報屋の描写が具体的だね?モデルいるの?」「はぁ、実はクラスメイトで」「へぇ、写真ある?」「ああ、中学の卒アルに載ってると思いますよ」「見せてよ」「何でですか?」「実物はどんなのかな〜って」「あ〜、じゃあ持っていけば良いですか?」「いや、面倒でしょ?ファックスとか、スキャナで取り込んで送ってよ」「……写真なんで、すぐ破棄して下さいね」「りょーかい」
 以上、打ち合わせの際の担当さんとの会話だ。で、イラストを描いて下さっている先生から原稿が送られてきて吃驚。柳君じゃん、コレ。肖像権の侵害にならないか?
 「この写真のコで描いて、って言われたから描きました。美人な人ですね。実は先生の想い人だったりします?(笑)」ってメモされてるし。
 カッコ笑じゃない。かっこわらいじゃない!それ以上に、

 担当、何をやってるんだ。

 とにかく、そんな感じで柳君そっくりなのだ。描き直しは無理だった。
 担当さんに文句を言いに行くと「いや〜、絶対このキャラ人気になるよ!!」と、言うに事欠いてそんな事を言ったので、ようやくここまで出来たと自慢げに見せてきた何の絵も描かれていない真っ白なパズル(100ピース。とても難しいらしい)をひっくり返しておいた。

「情報屋だったら、ホント、まんま柳先輩ですよね!」
「面白いな」

 ……柳君をモデルにしたのは、私の責任ではあるが。が。
 あの時、担当の首を絞めてでもイラストを書き直して貰うべきだった。こんな展開に誰がなると予想出来ようか。
 興味深そう、というか楽しそうにしている柳君を見て心底そう思った。

「あ、そういえばこの作者、正体不明なんスよね」
「……ほう、」
「…………」



ちょっと黙ろうか、切原君。
興味を持つな、柳君。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -