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ここまでくると、わざとなのかと思う。



 結局、仁王君と色々な話をポツリポツリとしている間に球技大会が終わってしまった。
 思っていた以上に時間が経っているのに驚いて急いで戻ると、サッカーが優勝していてクラスがわき返っていた。しまった、と思った所で後の祭り。その上、その盛り上がりの主役のひとりである柳君が「どこへ行っていたんだ」と言ったきり、答えも聞かずにムスッとして、取り付く島もなかったのだ。真田君のとりなしで、少しずつ機嫌も良くなったので胸を撫で下ろしたのだけれど、柳君にああいう態度をとられたのは初めてだったのでちょっとショックだった。
 機嫌が直って本当に良かった……。


 球技大会が終わると、すぐに中間テストだ。
 実力テストの結果が出た時、真田君と中間テストでの勝負を持ちかけた手前負けられない。
 有り難いことに小説の締め切りも被らなかったので、かなりしっかりと勉強できたし、体調も良い状態でテストを受けられることが出来た。
 そうして掲示の前。

「危なかったぁ……」
「フ、フフ」
「またか!己の不甲斐なさに腹が立つ!」
「フフフフ」
「凄く悔しい……!」
「まさか、2番とはな」
「ホーッホッホッホ!!!」

1、玉梓早妃
2、柳蓮二
3、青海宙
4、神鳥綾
5、真田弦一郎

 結果は3番。そして辛くも真田君の追撃を逃れられた。でも、点数は分からないものの、これはかなり危かった気がする。

「青海、潔く負けを認めよう」
「いや、真田君はあれだけ厳しい部活動と両立させたんだから。点数の上では私が勝ったとはいえ、努力では真田君の方に軍配があがるよ。次は、点数も努力でも負けないように頑張るよ!」
「青海……。うむ。今度の期末では、必ず青海より上位に入って見せよう」

 真田君と握り拳をぶつけ合って、青春漫画よろしく再戦を誓い合った。真田君はピンととても真っ直ぐで、彼の前では私も真っ直ぐでありたい、そう思わせるひとだと思う。
 しかし、今回は早妃が絶好調だ。今も別の意味で絶好調であるが。
 流石は演劇部。巧みな高笑いが辺りに響き渡っている。何というか、似合ってるな……高笑い。

「凄いね、早妃!」
「宙〜もっと誉めて〜」
「凄い凄い!頑張った!」


 むぎゅーっと抱きしめ合いながら褒めちぎる。早妃は部活動も忙しい中でのトップだ。
 ぎゅうぎゅう抱き締めながら、私の肩越しに早妃が話し始める。

「柳蓮二!勝ったわ!!」
「……ああ、今回は負けたな」
「『負けはいけないな』」
「……上手いな」
「私を誰だと思ってるの」

 ここでまた高笑い。本当に絶好調。これほど嬉しそうな早妃もなかなかお目にかかれない。

「今回は真田君にしてやられましたね」

 早妃に抱き締められながら真田君と苦笑いしていると、真田君に声がかかった。この声は……。

「柳生」
「はい。失礼だとは思いましたが、真田君と青海さんのお話を聞かせていただきました。……お陰で6番になってしまいましたよ」

 丁寧な口調と所作、柔らかな物腰で現れた人物は当代男子テニス部レギュラーのひとり、柳生比呂士君だった。
 眼鏡がずれたのかクッと持ち上げながら、彼も苦笑いを浮かべている。

「おっと、私としたことが挨拶が遅れてしまいましたね。こんにちは、青海さん。玉梓さんも」
「こんにちは柳生君」
「やっほ〜!紳士新影流!!」
「?」

 ハイテンションになっている早妃の挨拶に、柳生君の頭の上にはクエスチョンマークが点灯した。
 同時に私の後ろでは、プッ!と綾と柳君が噴き出す声が聞こえるし、真田君も笑わないようにつとめてはいるものの、下を向き肩を振るわせている。

「ちょ、早妃!」
「紳士新影流とは一体……?」
「いや、あのですね……」

 決して悪口ではない。悪口ではないのだが、人の名前を覚えるのが大層苦手な私がどうやって柳生君の名を覚えたのかを説明せねばならず(紳士をくっつけた話も)物凄く恥ずかしい思いをした。

「そういうことでしたか」
「あの、本当にすみません……」
「いえ。お気になさらず。私の名前を覚える努力をして下さったのですから」

 良い人……!紳士の名に恥じない優しい微笑みと言葉に感動してしまった。

「ふむ。しかし、いくら弦一郎が勉強したとはいえ簡単に柳生がベスト5から落ちるとは予想外だったな」

 柳君は真田君に対して結構酷いことを言っていないだろうか。
 しかし、私の心配を余所に真田君も肯いていた。

「うむ……。俺もそれは思ったぞ。青海と勝負を誓ったものの、やはり上位五名に食い込むのは難しいからな」
「お恥ずかしい話、今回は少々テスト勉強に集中できなかったのですよ」

 また眼鏡をくっと持ち上げながら、話す柳生君。彼は絵に描いたように真面目な感じを受けるので、こういうことは珍しいんじゃなかろうか。

「珍しいな」
「たるんどるぞ!」
「申し訳ありません……」

 本当に申し訳なさそうに謝る柳生君とそれに憤慨する真田君。しかし、ここで綾が「でもね〜、柳生が勉強に集中してたら真田は五番にも入ってないんじゃない?」という爆弾を投下してしまった。「確かにな」「それは確かに」と柳君も早妃も口々に賛同してしまうものだから、真田君が落ち込み始めた。

「真田君、そのようなことはありませんよ!」
「そうだよ真田君!」

 フォローをするのだが、私の今の体勢は前からにやにやしている早妃に抱き付かれ、後ろからはこれまたにやにやしている綾にくっ付かれというサンドイッチの具のようなヘンテコな体勢なので、フォロー出来ているか何とも頼りない。

「…………うむ」

 見るからにしょぼーんとしてしまった。
 話題を変えよう!それが良い!

「あ!柳生君」
「はい。何ですか?」
「集中できなかった、って原因は何?ああ、立ち入った話なら話す必要はないんだけどね」

 すると、目に見えて柳生君の顔色が変わった。ちょっとギョッとする位に喜色満面である。よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりだ。

「青海さん、よくぞ聞いて下さいました。実は皆さんにお勧めしようと持っていまして……」

 持ってきているのか。しかも、自分のクラスにとかじゃなくて今、持ってるのか。
 柳生君は若干照れ照れしている。

「小説なのです」
「へえ。私、読書好きだから……」
「ほう。それは気になるな」

 私と柳君が食いつく。
 柳君は中1から変わらず年間600冊以上を図書館で借りているが、中3まで次点で500冊以上借りていたのが私だった。
 今は時間がなかなかとれないので10分の1程に落ちてしまったのだけれど。

「はい。これです!」

 …………凄く、見たことがあると言いますか、見覚えがあると言いますか。

 自分で自分の首をまた絞めちゃった☆

 と言うべきなのか。
 動揺のあまり、自分のキャラを見失いかけた。
 私を挟んでいる綾と早妃も固まった。現在、フランスパンのサンドイッチと化しております。そんな私達に気付かず、柳生君は嬉しそうに、幸せそうに語り始めた。

「妹から勧められまして。ライトノベルと言われているジャンルなのだそうですね。最初はあまり気が乗らなかったのですが、読み始めたら止まらなくなってしまったのです。お恥ずかしい話、最終的には妹が続きをなかなか買わないので、自分で買ってきてしまいました」

 どうぞ、お読みになって下さい。と丁寧に差し出された本。

「ア、イヤ、ヤナギクン……オサキニドウゾ……?」
「良いのか?では遠慮なく読ませて貰うぞ。……青海、何か固まってないか?」
「ソンナコトハ……」
「……日本に来たばかりの外国人のような片言じゃないか?」
「キノセイデス」
「いや、どう見てもおかしいが」

 そんなことは私が一番分かっていますとも。
 突っ込むな。お願いだから。

「!もしかして、青海さん貴女……」
「!!!」
「読んだことがあるのですか?」

 作者です。

「え、あ……ハイ」

 言えない。その上、頷いてしまった……。
 それから、やや興奮気味の柳生君に色々語られた。
 横で柳君が「ネタバレは止めてくれ」と止めるまで、柳生君の勢いは増すばかりだった。

 ……なんだろうコレ。



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