13

フラグを立てていけば、イベントが起こる。



 置き勉をしない主義の私は、毎日教科書や辞書を持って帰る。よって、荷物は毎日結構な重さになる。そんな荷物を抱えながら登校してきた私は靴箱を開けた。

「何コレ?」

 スリッパの上に、封筒が乗っていた。
 しかも真っ黒の。

 (真っ黒って所から、既に内容は分かりきった感じだな……)

 ってか、黒い封筒って売ってるものなのか。もしかしなくても、手作りだろうか。
 ため息をつきながら封筒を開けると、これまた真っ黒の便箋が出てきた。
 出来過ぎというか、芸が細かすぎる。
 そこに、白いペンで

「昼休みに屋上で」

 と真ん中に一行だけ書かれていた。屋上ってのも王道だな。
 ……来るものが来たか。



 4限目が残り10分となった所で、早妃が「先生、ちょっとお腹の具合が良くないのでトイレに行ってきて良いですか?」と言って、教室を出て行った。

「玉梓は大丈夫か」
「心配ないよ」

 ボソッと真田君が聞いてきたが、にっこりと笑って返した。「?そうか?」と真田君がまだ心配そうにしているが、今回は本当に大丈夫だ。私がお願いしたのだから。しかし真田君は優しいなぁ。後で早妃に話しておこう。



 4限目が終わると直ぐに席を立った。綾に目配せをすると、ため息で返される。綾にはちゃんとこの一件を話してある。
 ため息をつきたいのは私も同じだよ。

「ちょっと野暮用が入ったから、先にご飯食べてて」
「分かった。遅くなるのか?」
「分からないな。なるべく早くすませるつもりだけど」
「戻ってこないが玉梓は大丈夫か?」

 真田君、本当に優しいね。柳君もちらちら廊下を見ている。

「大丈夫だと思うよ。戻ってきたら、私を待たなくて良いって言っておいて」
「分かった」
「……行ってらっしゃい」
「行ってきます」

 綾の言葉に笑顔で返して教室を出た。



 屋上の扉を開けると、青空が目に飛び込んできた。見上げると、霞んだ春の青空が全天に広がっている。家とかマンションなどで閉ざされた地上とは違う開かれた空に自然と笑顔が浮かぶ。空と海の青はとても好きだ。優しい色だと思う。
 まだ、私に用がある人達は来ていないらしいのでとっくりと空を見つめる。
 すると、おや?と引っ掛かるものがあった。けれど、まあ大丈夫だろう。予定外だが、大人しく傍観を決め込んでもらえれば被害は及ばないはずだ。
 そのまま日の当たる所まで歩を進めて、くるりと振り返る。

「……なるべく早く済まして欲しいんだけどな」
「それは貴女次第でしょう?」

 来ました。お約束。ファンクラブによるお呼びだし。

「ひとりで来たのね」
「一人で来ましたよ〜。そっちは5人か。一人相手に大仰だね」

 ズラリと戦隊ものの様に並んでくれている。ポーズを取っても可笑しくないぞこれは。

「用件は何?って一応聞いておくよ」
「分かってるでしょう?……お前、目障りなんだよ!」

 その内の1人が口火を切ると、一気に叫びだした。しかも、がらりと口調が変わってちょっと驚いた。

「柳君から離れてよ!」
「柳君だって迷惑してるんだから!ウザいのよ!」
「柳君がなんでアンタなんかと一緒にいるのか分かんない!」
「……いや、真田君は?」

 柳君ばっかだな。真田君はどうしたよ。

「……勿論、真田君からもよ!」

 真田君、あんまり人気無いのかな……。格好良いのに。凛々しくて。確かに、風紀委員だしちょっと融通がきかない所はあるけどね。でも、真田君の方が常識人だよ。柳君ファンは彼の本性を知らないだけだ。いや、フィルターがかかっているのか、そこもひっくるめて好きなのか。

「目障り、ウザいか。もっとさ、語彙を増やさないと生き残っていけないよ?確かに王道を上手く料理するのも大切だし、才能だけど」
「意味が分からないこと言わないで!」
「売れない作家志望が言っても説得力ないわよ!」

 ここでも出ますか、その噂は。

「ごもっとも。でも、この状況はどう見てもイジメにしか見えないねぇ、集団ってところが余計に」
「イジメじゃないわ!テニス部の皆が優しいから、代わりに動いてるのよ!」
「とにかく、2人から離れてよ!」

 ファンクラブを否定しようとは思わない。誰かを好きになるって素敵な事だと思うから。でも、彼女達は解ってるのだろうか。自分達の行動が。

「はっ。優しいテニス部?本当に優しいなら自分で言いに来なさいな。他人に「目障りです」って言わせる、どこが優しいの。それが本当なら、キミ達が都合良く使われてるってことだよ」
「違う!」

 当たり前だ。違うって私も分かってるよ。

「キミ達の大好きなテニス部は、そんな事を女の子にやらせる集団なの?」
「違うっ!」

 ファンクラブの一部が泣きそうになってきた。悪者はどっちだよ、みたいになってきてしまった。

「キミ達がテニス部を好きになった理由はそれぞれあるだろうね。その気持ちまで踏みにじろうとは思わない。彼等が格好良いって私も認めるよ。恋愛感情に発展するかしないかは個人によって違いがあるけれど。でも、ちゃんと考えて行動しないと、テニス部の格までが落ちるってこと。後、「格好良くてステキな」テニス部は嫌なことは嫌ってちゃんと自分で言うでしょうよ」
「……離れないってこと?」
「離れるも何も、束縛してる覚えはないよ」
「一緒にいるのに変わりはないじゃない!」
「……拘るなぁ、その一点に」

 どうしたもんか。
 彼等とは友達になったんだと私は解釈している。友達と喋ってるだけなんだが……気に入らないんだよねそこが。彼女達は。

「……私達だって、単にお喋りしてるだけなら許せる。けど、あなたは柳君に必要以上に近付いてるもの!」
「あれは……その柳君が元凶かと」
「何かとベッタリしてるじゃない!」

 その台詞にガーンとなった。ベッタリ。ベッタリしてるように見えるのか……。そうか。ベッタリか……ベッタリね……。柳君が、その、ベッタリ(気持ち悪いな)くっ付いて来るんだよ……。私は今、床にベッタリしたい気分だ。

 やるせない気分になって黙り込んだ私をどう解釈したのか、彼女達が「何も言えないんでしょ!」と勢い付いた。

「いや、認めたくない現実を突きつけられて……」
「認めるのね、柳君にベッタリしてるって事を」
「誰が認めるか。ってか、キミ達も現実を見ようよ。ベッタリしてくるのは柳君だよ……。ホント誰か代わってくれ。席ごと。それに、嫌ならどうとでも上手く避けるでしょ、彼は」
「違うっ!アナタが言い寄ってるの!」


 言い寄ってるって何だ。どうやるんだ。
 そう言い返したかったけれど、激昂したファンクラブの1人が手を思いっ切り振りかぶっていた。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -