12

プライバシーとかどうなの、とは思う。



 結局、毎朝柳君からのメールで起きるようになりました。
 迷惑メールに認定してやろうかなって思ったけど、なんかもう、こうなったら有効に使ってやるか……。って心境です。
 一回、試しに「おはよう」って返信してみたら、気持ち悪い位長いメールが届いたので(あの返信の速さとメールの長さが全くもって釣り合わず謎が残った。しかし解明する気にもなれなかった。怖くて。)あれ以来、絶対におはようメールに返信はしないと固く心に誓っております。
 その日一日、何故か柳君は終始ご機嫌だったのも気になるといえば気になる。


 テストが終われば通常授業が始まる訳で、テストも全て返却された。後は結果待ちだ。

「あ〜、やっぱりいつもより点数良くない」
「そうなのか?」

 くそう。そんな私の嘆きに、移動教室から戻ってきた真田君が律儀に聞き返してきた。

「ほら、テストの時死んでたでしょ私。だから見直しとかほとんどしなかったんだよね」
「あれは出来なかったの方が正しくない?」
「確かに体調を崩していたからな。しかし、見直しは重要だぞ」
「……良く分かってるよ……。理数の二日目は一日目より随分ましだったんだけどね」
「私は数TAの問3のミスが痛かった…」

 はぁ、と早妃と2人ため息をつく。が、いくらついても終わったことはどうしようもない。文系科目は見直しにそこまで目くじらをたてなくても良いのだが、理系科目は結構命取りだ。計算ミスが大きく響く。

「でも、思ってたより悪くはなかったから良しとするよ」
「ほう。その口調からするとケアレスミスが少なかったか」

 にゅっと後ろから柳君がまさに首を突っ込んできた。
 顔が近い。ぎゃっと避けた私を追いかけて、柳君(の顔)が更に接近してきた。「ん?どうした?」って言って笑ってるあたり、わざとなんだろうな……。にしても顔が近い。
 暫くじーっと見つめ合いっていたが、ふと悪戯心が芽生えた。

「いや、ひっぱたきたくなる位には綺麗なかんばせだなと」

 ファンクラブに入って騒ぎ立てる心境とかは解らないのだけど、実際綺麗な顔してるなぁとは思う。真田君も凛々しいしね。

 茶化しながら、今度は私から顔を更に接近させた。横で早妃が叫んでいるが、ここが我慢のしどころぞ!と顔を近付けて、ひた、と相変わらず見えてるのか判らない目を縁取る睫を見つめる。長っ。毟ってやろうか。
 さて、真綿で首を絞めるような感じで、ゆっくりネクタイを引っ張って首でも絞めてやろうかと思ったけれど、じーっと柳君を見つめていると、自分でも思いがけず「本当に綺麗だね」とするりと口から言の葉が零れ出た。

「………っ!」

 柳君はガタガタッと大袈裟な程派手な音を立てて、椅子から立ち上がった。

「と」
「と?」
「トイレに、行って、くる……」
「?ああ、うん、行ってらっしゃーい」

 バタバタと、彼にしては珍しく慌ただしい足音を立てながら廊下に消えていった。


「良し、勝った!」
「……何に」

 柳君が完全に見えなくなってから、私が小さくガッツポーズを作っていると、綾が若干呆れた様子で尋ねてきた。

「え?ああ、柳君が無駄に顔を近付けてきたから、こうなったら向こうから顔を反らさせてやるぜ!って思って。最初はネクタイで首を絞めようとしたんだけど。良く分からない内に勝利した」
「………………」
「…………哀れ、柳蓮二」
「ムカつく事には変わりない」

 私の台詞に、真田君は押し黙り、綾は呆れ果て、早妃はムスッとしていた。何だ?
 頭の上にクエスチョンマークを飛ばしていると、バタバタと去っていった柳君がパタパタと小走りに戻ってきた。

「貼り出されたぞ」

 その一言で何かは直ぐに分かった。
 昨今、こんなことしてる学校なんか他にないんじゃないだろうか。とは思うが、立海ではテストの結果が貼り出される。上位50名限定だが。
 柳君の一言は私達だけじゃなくてクラス全体を巻き込んで、ほぼ一斉に順位表へと足を向けた。
 順位表の前に着くと、貼り出された直後らしくまだ人がまばらだった。
 直ぐに上位5名の名前を見る。

1、柳蓮二
2、神鳥綾
3、柳生比呂士
4、青海宙
5、玉梓早妃

「あ〜!4番かぁ〜!」
「くそう!問3が全ての元凶……!」
「柳に負けた……」
「フッ」
「………7番か……」

 それぞれ、結果に悲喜交々だった。

「あの状態の青海に劣るとは…」

 隣では真田君が見るからにしょんぼりしていた。

「次回、受けて立つからかかっておいで!真田君!」
「……うむ!負けんぞ!」
「柳君も次は勝つよ!」
「絶対引きずり降ろしてやる……」
「俺とて次回も負けないぞ」

 偉そうに言っているが、実際にトップ5の名前はほぼ固定されている。とは言え、柳君を1番から引きずり降ろすのはなかなか出来ない。2番から5番の名前が入れ替わるだけで、中学時代から数回しかその座を譲らないのだ。

「3番は新陰流か……」
「新陰流……柳生か」
「………新陰流……」

 私の呟きに、柳君と真田君は微妙な表情をした。

「名前を見た瞬間から新陰流しか浮かばなくて」
「あれはどっちかというと、中世騎士道だが」
「あ〜、何だっけ。紳士?だっけ?」
「そう呼ばれているな」
「じゃあ、紳士新陰流で」
「「…………………」」

 自分で言っておきながら、どんな流派だ。と思ってしまった。


「柳の名前破いて良いかな」
「墨を塗っておけば?」
「…………………」

 そして綾と早妃は、相変わらず柳君に冷たかった。


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