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約束のお弁当の日。



 恐怖の席替えから、真田君とはより仲良くなり、柳君にはよりちょっかいをかけられ、綾は良い具合に傍観を決め込み、早妃は柳君の抹殺に本格的かかろうと画策していた。でも、随分と仲良くなれた気がする。二人とも基本的に優しいことが分かったしね。
 今日は月曜日。

 週も開けて、若干疲労感は残っているものの、睡眠不足は解消され、真田君のお弁当もちゃんと作ってきました。

「あ、おはよう真田君。約束通りお弁当作ってきたよ」
「おはよう、真田」

 朝、綾と話していると朝練が終わった真田君と柳君がクラスに戻ってきた。

「ああ、おはよう青海に神鳥。すまないな、青海は体の方はもう大丈夫か?」
「土日があったしね。もう大丈夫だよ。心配をおかけしました」
「なら、良いんだ。昼休みが楽しみだ」
「宙は、私と早妃にもデザート作ってきてくれたからね」
「真田君の分もあるよ」
「それは、逆に気を使わせたな。重くはなかったか?」
「いや、別に。いつもは置き勉しないんだけど、今回は特別に置き勉したからね。大丈夫」
「そうか」

 和やかに談笑していると、私の後ろからおどろおどろしい空気が立ちこめてきた。

「青海……俺には挨拶も何もなしか」

 そんなつもりは無かったのだが、確かにまだ苦手意識が抜けきらない。

「いや、そんなことはないよ。おはよう、柳君。朝練お疲れ様」
「……ああ、ありがとう」
「柳は、宙に気持ち悪いちょっかいをかけすぎなんだよ。その内、早妃に抹殺されるよ」

 珍しく綾が柳君に注意を促すが、柳君はどこ吹く風だ。

「フッ、返り討ちにしてやろう。それに、これは、愛情表現だ」
「……………………」
「……宙、頑張れ」
「………む」

 視界が涙で滲んできた気がする。愛情表現ってなんだろう。朝必ず素晴らしいタイミングで「おはよう」メールが届くとか、授業中にやたら背後から視線を感じたり、休み時間もやたらこっちを見ながら、ノートに高速で書き込みをしているのが、愛情表現なのか……。日本語って難しいな……。
 柳君ってこんなキャラだったのか……。
 しかも、彼のそういう態度が男子テニス部ファンクラブを煽りに煽っている。これ以上煽ると大火災になりそうだ。振り袖火事も真っ青の。今だって、「愛情表現」の下りで悲鳴が起こった。本当に勘弁してくれ。
 悲壮感を漂わせていると、早妃がまた滑り込みで時間に間に合っていた。いつもながら、芸術的。


 日常になってしまった、私、綾、早妃、真田君、柳君のコント的やり取りはなんだかんだ言って楽しいのには違いない。
 お昼の時間も、いつのまにやら5人で食べることになっていた。

「作ってきました!どうぞ真田君!」
「うむ!すまんな!」

 ドン、と真田君の机に重箱を乗せた。

「……多くはないか?」

 柳君の疑問は尤もだ。調子に乗って三段作ってきたし。
 しかし、柳君がにやにやしてるな。気持ち悪い。

「いや〜、私が真田君と仲良く!同じお弁当つつき合うから」
「な、なんだと!」
「あれ、駄目だった?」
「いや、別に……」

 真田君はまた照れ始めたし、何やら、柳君の視線が痛い。
 まあ、あんまりからかっても悪いか。

「冗談だよ。柳君との2人分。自分の分はこれね」

 ひょいっとお弁当を取り出した。

「どうせ、柳君は私が柳君の分も作ってくるって分かっててお弁当持ってきてないと踏んだんだけど」
「……良く分かったな」

 ちょっと吃驚している柳君に、苦笑するしかない。

「いや、あれだけ『月曜は弁当を忘れるな』とか、昨日は『明日は弁当だぞ』とか、メールが来るとね…イラッと来るのを通り越して失笑するしかないよ。作ってこいって直接言わないだけで、逆に作ってこいって声高に叫んでるのと同じだったし。作ってこなかったら、落ち込むだけ落ち込む柳君が見れるかな、とも思ったんだけど、理不尽にも真田君の分を取り上げる気がしたし」
「「…………………」」

 真田君と柳君はそれぞれ違う理由で押し黙った。
 因みにそれらのメールに返信はしていない。勿論一切合財無視している訳じゃないのだけれど、返信する必要性を感じないと、大体において無視してしまう。

「柳君……いい加減にしないとどうなるか分かってる?」
「フッ……分からせてみるか?出来るならの話だがな」

 バチバチやりはじめた柳君と早妃を放置しておいて、真田君と綾に「さ〜食べるか」と声をかけた。

 お弁当の中身は真田君の好物を出来るだけ反映させてみた。
 牛肉のそぼろ煮、アスパラのベーコン巻き、鶏つくねの薄焼き卵茶巾包み等々。とにかく、肉を多くして、野菜も入れて彩にも気を使った。
 ご飯は、三種類の混ぜご飯を丸めて、串団子風に串に刺した。

「これは、凄いな」
「あ〜無駄に気合いを入れたからね。ま、それだけ真田君のお粥差し入れが嬉しかったんだよ」
「そうか。そこまで言ってもらえると、こちらも嬉しいな」

 「いただきます」と折り目正しく手を合わせて、真田君は箸を取った。

「……うまい」
「良かった〜……。ちょっと不安だったんだよね」
「肉が多いが、やはり俺の好みに合わせてくれたのか」
「勿論」

 「うまい」を連呼しながら食べてくれる真田君にほっと胸をなでおろす。
 う〜ん、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。

「弦一郎……俺の分もあるのだが」
「無論だ。早く食べねば、全て食べてしまうぞ」

 柳君も急いで箸を付け始めた。でも、「いただきます」を外さない辺り、育ちの良さを窺わせてくれる。

「……本当に美味しい」
「それはどうも」

 柳君には好みを聞かなかったので、これまた心配だったのだが大丈夫のようだ。
 自分のお弁当を食べながら、綾と早妃と話している隣では、真田君と柳君のお弁当を巡る仁義無き戦いが繰り広げられていた。

「あ!その番組私も見たよ」
「蓮二!その椎茸の含め煮は俺がとっておいたものだぞ!」
「犯人が鳩の大群に襲われた時……」
「名前でも書いておけ。な、弦一郎!それは俺の」
「検死で烏賊が出て……」
「先程の言葉、そのまま返すぞ。しかしこの春キャベツが」
「探偵と熊が……」
「俺にも食べさせろ」
「最終的に犬小屋が絶壁に……」
「お前こそ、先程からその…「あ、デザートは豆乳プリンね」
「「ああ」」


 お弁当は、2人に絶賛されて終わった。あれだけ褒められると、恥ずかしすぎて穴に入れると思う位には褒められて終わった。


「というか、昼にお前達が横で話していた番組の内容が気になるんだが」
「同じく」
「あ〜二時間ドラマの?」
「「二時間ドラマ!?」」
「「「うん」」」


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