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くじ運は良い……ハズなんだが……。これは良いのか悪いのか。



 お昼が終わって、午後からはクラスや学校生活に必要な雑多な係や委員会を決める時間になった。
 私は綾と2人で図書委員になった。我が立海は、部活か委員会のどちらかに所属しなくてはいけない非常に面倒な決まりがある。私は現在部活動が無理だし、中等部からずっと図書委員会に所属しているのでやっぱり図書委員会に。ちなみに早妃は部活動が忙しくて委員会活動が無理である。

 決めなきゃならない諸々のことが決まってから、今更ながら簡単な自己紹介がはじまった。中等部からエスカレーター式だが、外部入学もいるし、如何せん人数が多いので知らない人も沢山いたりする。しかし、ここでも男子テニス部の人気は不動らしい。女子からの拍手が尋常じゃなかった。

「次〜青海」

 なかなか人の名前が覚えられない私は、覚えようと努力をしながら聞いていたため、話す内容をさっぱり考えていなかった。

「あ、え〜っと、青海宙です。趣味は読書で、空を見ることが好きです。同じ趣味の人がいたら是非声をかけて下さい。……これから一年、宜しくお願いします」

 つっかえつっかえなんとか話すと、パラパラとまばらな拍手が起こった。その拍手の中、「売れない作家ですって付け加えたら?」と悪意ある言葉が投げかけられたが、聞こえないふりをする。

 ファンクラブのやっかみが結構大きくなってると感じて、頭が痛くなる。
 私が、自分で言うのもなんだが、売れっ子の作家であるというのは全くもって知られていない。名前が違うし。しかし定期的に、睡眠不足です!と全身に貼り紙をしているような風体で登校するし、一回だけだが、どうしても〆切りに間に合わなくなりかけて、背に腹は代えられない!と学校にノートパソコンを持参して昼休みに司書室に籠もったりした。こっそりやったのだが、こういうものは漏れる所から漏れる訳で、青海宙は作家志望なんじゃないか。と噂がたったのだ。
 で、良く睡眠不足をひきずっている割には全く名前が表に出ないので、売れてないんだ。とまあ、短絡的な思考回路による噂が一時期蔓延した、らしい。何故誰も本名と筆名が違うのではないかと言い出さないのか。もともと、噂とかに興味がない上、自分の噂は案外自分の耳に入らないという訳で、これは綾情報だ。
 まあ、正体をあかしたくない私としては、〆切り前後の睡眠不足を向こうが勝手に解釈してくれる大変都合が良い噂だし、肯定もしなければ嘘もついてないことになるし。放っておくのが一番である。
 だけど、その噂も直ぐ下火になったようなので、今更聞くとは思わなかった。



 自己紹介が終わった6限目に、野村先生がビンゴゲームを持って教室に現れた。
 途端にクラスが期待でざわついた。
 この野村先生、席替えをビンゴゲームで行う。
 最初に黒板に教室の机を描き、そこに適当に番号をふる。そして生徒は自分が引き当てた番号の席になる。と単純だが結構楽しい席替えになるのだ。
 ただ、ビンゴゲームの番号(1〜75)と席の数(1〜41)が合わないので、生徒はひたすら席の番号が出るまでビンゴを回さなくてはならないのが難点だ。いらない数字が書いてある玉を先に出しておけばいいのだが、面倒らしい。
 席替えなのでそこら中で、あの辺が良いだのこの席が良いだの席の希望が囁かれている。

「宙〜私、廊下側が良い!」

 早妃もこちらを振り返って席の希望を述べ始めた。

「じゃあ、私は一番窓側前の方かな」
「私は窓側で真ん中」

 私も希望の席がある。綾もしかりだ。窓側は風通りが良いし、外が見られて楽しい。空も見上げられる。前が良いのは視力の関係。綾は、日当たりの良い窓側が良いのだけれど、直射日光が嫌いなので、一番窓側は避けたい。早妃が廊下側を希望しているのは、早妃は朝ぎりぎりで登校してくるから廊下側の方が都合が良いし、結構早妃は用事があって休み時間に外に出て行く。くっついているようで、好き勝手に動くというのが私達のスタンスだ。それぞれ、自分の座りたい席があって、縛られないし流されない。

「言うのは自由だが、ビンゴで引かないと無理だぞ〜」

 と先生が笑いながら告げる。道理だ。引かなきゃ意味がない。
 レディファーストということで、女子から先にビンゴを回す事になった。
 女子1番の浅井さんが、いざ!というときに、「先生〜、私の分を青海さんに回して貰っても良いですか?」と綾が提案した。早妃も「私の分も!」と続ける。クラスが一瞬ざわめくが、「好きにしなさい」とのお達しに、少しずつ静かになっていった。と言う事は、私は3回回さなきゃいけない。席を立つのが面倒である。

 その後綾、早妃、私の分と三回回したが、見事それぞれの希望の番号を出した。
 こういうのは、何故か昔から得意なのだ。だから、2人共私を頼った。他にはガシャポンに使えるささやかな特技である。

 全員回し終わって、それぞれの場所に席を動かしていく。
 結構これが面倒というか、「はい、ごめんなさいよ〜」と言いながら、あちこちで渋滞やら衝突を繰り返し、なんとか席を移動させていく。
 目的地に到着すると、私の斜め後ろには綾が既に到着していて、よっ!と挨拶を交わした。
 よしよし、綾も側だし一番窓側3列目。希望通りの良い席だね!

 結果に満足していると、ガタン、と私の隣に机と椅子が到着した。お隣さんは誰だろ……う……。

「青海、よろしく頼む」

 深々と頭を下げてきたのは、武士、真田君だった。まさかの隣。

「おぉう……。……こちらこそ、よしなに」
「うむ」

 彼にはつい時代劇口調で返してしまう。
 真田君なら五月蠅くないし、礼儀正しいし、良い人だし。
 やっぱり良い席に変わりない!と拳を握りしめた瞬間だった。

「こちらもよろしくな、青海」

 死刑宣告のように、後ろから声がかかった。

「や、柳君……」
「蓮二!偶然だな」

 ……前言撤回。ここは良くない席だ。

「早妃〜!席代わって〜!」
「青海〜ビンゴは絶対だ」

 一番廊下側の早妃に向けられた私の叫びは、野村先生によって一刀両断された。
 馬鹿な。何故真後ろなんだ。

 後ろでは、「神鳥、よろしくな」「こちらこそ、柳君」と2人が優雅に挨拶を交わしていた。

「その、青海、頑張ってくれ」
「真田君……本当に良い人だね……」


 涙が出るよ。


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