09

感動した!



 チャイムの音と同時に、シャープペンシルを机に置いた。そこら中から「終わった〜!」と解放感に満ちた台詞が聞こえてくる。確かに、この時の開放感は半端じゃないと思う。〆切りほどじゃないけれど。
 これで、テストが全て終了した。
 まだまだ体が本調子ではないので、数学の見直しがいつもより適当になってしまった。私は結構ケアレスミスが多かったりするので、命取りになる場合がある。今回は3位以内に入らないだろうな、とぼーっとする頭で考えた。

 回収した答案用紙のチェックが終わった先生の「お疲れ様」と言う声で、お昼休みに突入した。


「終わったね〜」

 昨日と同じ様に、綾と早妃が私の席に来てくれた。

「出来の方はどう?宙」
「バッチリだぜ!と言いたい所だけれど、今回は見直しほとんどしなかったから、順位落ちただろうな〜」
「なら私が宙より上に行くかも」
「なになに、綾は手応えがあるみたいだね」
「その隙をついて、私が1位を狙う!」
「早妃も手応えありですか」

 私、綾、早妃は中等部から上位の常連者だ。ここに柳君と、し……違った。え〜っと、そう、柳生君!が入って、5位までを独占、かつ、順位争いを繰り広げている。たま〜に真田君とかが入るけれど、本当に稀だ。

「それにしても学年の初めからテストってのが、学生の悲しさだよね」
「違いない」

 学生の本分は学業だしね。と笑い合っていると、早妃がちょっと得意そうにお弁当箱と大きめのタッパーを取り出した。

「ジャーン!」
「何で2つ?」

 女子高生としてごくごく普通の食事量の早妃は、そんなに食べられないはずだ。

「片っぽは、宙の分!」

 タッパーに入れられたそれは、お粥だった。

「じゃこで味付けしてあるよ」
「早妃……!」

 愛してる〜と叫んで早妃を抱きしめると、早妃が私も!と叫び返して、教室の片隅で愛をかみしめ合っていた。

「本当にありがとう!」
「これなら宙も食べられるでしょう?」
「バッチリだよ!」
「私はゼリーを持ってきたんだけど」
「綾……!ヤバい、泣きそう!」

 教室の片隅で愛を叫ぶ作業が最高潮に達し、「元気になったら何か作ってくる!」と私が宣言していると、「青海」と遠慮がちに声をかけられた。

「盛り上がっている所にすまんのだが」
「分かってるなら、声をかけるな」

 早妃の素早い切り返しにも真田君はめげず、彼はぶっきらぼうに大きめの魔法瓶を私に突き出した。

「これは?」
「いや、その、なんだ……」

 珍しくも、真田君ははっきりと言ってこない。というか、顔がどう見ても赤いし、照れているのが分かる。

「弦一郎、キモいぞ」
「キモいなんて言ってる柳君がキモいわ」
「……………」

 早妃の言葉に押し黙った柳君はこの際無視だ。

「で、なに真田君」
「うむ。そのだな……」

 言いにくいらしい。しかし、真田君が言い出すまで待ってたら、昼休みが終わる気がした。
 ええい、ここは何か雰囲気から時代劇がかってる真田君に合わせて喝を入れてみるか!

「へどもどせずに、もっとピンシャンなさい!」
「む………そうだな!」


 おお、効いちゃった……。江戸っ子調を選んでみたが、効いたようだ。柳君がクツクツ笑っているのが分かるし、勢いでやっちゃったとはいえちょっと恥ずかしいかもしれない。

「ゴホン。……で、これは何ですか」
「うむ。その中には、粥が入っている」
「…………え?」
「昨日、昼に固形物が入らないと聞いたのでな、母に頼んで粥を作って貰ってその中に入れてきたのだ」

 ぽかーんだ。え、何だって?

「え?わざわざ?」
「昨日、失礼なことを言ったしな。そ、それに、昨日の昼は抜いておきながら、昨日の青海の様子からして夜も食べないのだろうと思った!今日の朝はゼリーだと言うしだな……とにかく!体に悪い!」

 感動だ。感動だよ真田君。
 何でそんな必死に言い訳してる感じなのか、そもそも誰に言い訳してるのかとか、どうでも良くなった。って言うか、ツンデレ?なのか?彼は。

「すごい、嬉しいよ。真田君」
「む」
「昨日のことなんか、はっきり言って忘れてたし。だから、このお粥でお釣りが来るって言うか、私が貰いすぎになっちゃったよ」
「……そうか」

 わ〜、どうしよう!凄く嬉しいし幸せ!と喜色満面の顔で魔法瓶を抱きしめた。早妃はそんな私の頭を撫でている。とっても幸せ。柳君も撫でて来ようとしたけれど、早妃に思いっきり足を踏まれていた。ピンヒールなら良かったが、スリッパなのが残念極まりない。

「あ、でも、今日のお昼は早妃がお粥を作って来てくれたし、綾がゼリーを持ってきてくれたんだよね。だから、この魔法瓶持って帰っちゃ駄目かな?晩ご飯にするから」
「別に構わんぞ」
「本当にありがとう!お母様にも良くお礼を言っておいて下さい!」
「……ああ」

 本当に嬉しい。
 真田君は良い人だ!としみじみ思った。
 綾と早妃も、真田君ににこにこ笑いかけている。この2人の中でも真田君=良い人になったらしい。

「真田君は食べ物で何が好き?お礼に…そうだな、来週の月曜日にお弁当作ってくるよ」
「いや、そこまでしなくとも」
「私がしたいからね。気にしないで。基本的に私も普段は自分でお弁当作ってきてるからさ」

 味はそこそこ自信があるよ?と付け足せば、そこそこなのか、と返された。

「真田、宙がこう言ってるんだし作ってきて貰ったら?」
「因みに、宙の料理の腕前はそこそこなんかじゃないよ!」

 綾と早妃の援護射撃に、さしもの真田君も折れた。

「では、お願いするか」

 その後、真田君を交えながら真田君の好きな食べ物が肉とかなめこの味噌汁だとか話しながら、私は早妃のお粥を食べた。
 流石になめこの味噌汁は学校に持っていけないので、肉を入れて和食で攻めてみるよと言っておいた。
 とても楽しいお昼だった。



「弦一郎……」
「なんだ、蓮二」
「今日の練習メニューは5倍で良いか?」
「何故だ!?」


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