05

こんな贔屓は、いらん!


 体育館に行く為に早妃から離れると、非常に残念そうなため息が聞こえた。
 だらだらと体育館へ向かい、だらだらと並んで、だらだらと着席した。後ろの方では、今年同じクラスになってしまった男子テニス部真田君の名台詞らしい「たるんどる!」が無駄に連発されていた。頼む、たるませてくれ。
 そう言えば、真田君って文系だったのか。柳君が文系なのは知っている。

 始業式は、だらだらっていうか、ぐったり?している間に終わってしまった。校長先生の話とか、真田君が校長として出てきても違和感が無いかも……!と衝撃の事実に気が付いてから全く内容を覚えていない。違和感がなさ過ぎるっていうより、下手したら校長先生より威厳に満ち溢れているかもと思ってしまった。ごめんなさい、校長先生。
 クラスの担任と副担の紹介は盛り上がった。
 E組は担任が社会科の野村先生で、副担が理科の斉藤先生だった。2人共大好きな先生だったので、凄く嬉しい。


 始業式が終わってクラスに戻ると早速、野村・斉藤両先生のお話があった。二人とも人気の先生だけあって盛り上がる。だけど、最後に「後30分で皆さんお待ちかね、大好きな実力テストだぞ〜!」と言われて、クラスのブーイングの嵐の中、ぐったりを通り越して、でろーんとしていた。頭痛は引かないし。今日、文系科目で良かった……。

 残りの時間で、最後の悪足掻きと言う名の課題見直しをしているクラスメイトを横目に、でろーんとする。少しでも体力と精神力を回復したいという、私だけの悪足掻きだ。
 最初は国語だったっけ。センターと同じ時間配分だから90分か……。
 教科から適当だ。私としては、休まなかった事を誰か褒めてくれ!って感じ。帰宅したら、何はともあれ寝るんだ!と固く誓ってある。


 テストが始まった。
 実力と名の付くテストなので、半分が春休みの課題から、半分が未知の問題だった。

 が。

「……ゲホッ!ゲホッ!」

 え、ちょっと待て。なんだコレ。私への挑戦!?新手の嫌がらせ!?
 目が点になるって、こういうことなんだねー。

 最後の問題文、

 私の小説なんですけど!

 時代小説の記念すべき第一冊目だ。えええええ〜。
 先生達は、勿論知っている。私の“正体”を。プロの小説家として生活すること、でも学校はやめないこと、やめたくないということ。そして正体を明かしたくないという私の思い。我侭放題の私を認めてくれた。その他にも色々許可を貰って、協力や少しのお目こぼしまでしてくれている。但し、お目こぼしに関しては私が嫌なので、本当に少し。応援してくれている。

 なんで?
 思わずむせてしまって、ゲホゲホしながら、教卓の椅子に座っている野村先生を見ると

 ちょっとした
 ひ
 い
 き

 と口がゆっくり動いた。
 
 いらん!いらんぞ、こんな贔屓!
 嫌がらせと同じです!

 っていうか、先生笑ってるし!心の底からの会心の笑みってヤツを浮かべている。嫌がらせだろ?これって嫌がらせなんだろ?問題を最後に持ってきてるあたり、そうなんでしょ!?

 綾と早妃も挙動不審になってるのが分かる。犠牲者が……!

 解答途中で質問を受けに巡回してきた国語の先生を、思いっ切り睨んでしまっても誰も責めないと思うんだ。
 机間巡視のふりをしながら近づいてきた国語の先生は、私の肩をポンと叩いてそのまま教室を出て行きました。

 楽しそうに笑いながらね……!

 っていうか、この大問で一つでも私が間違えたらどうなるんだろう……。模範解答扱いとかになるのだろうか?でも、小説や評論が問題に使われたのは良いけれど、その模範解答が筆者の言いたい事と違っていたというのは結構聞く話だし、作者から言わせれば最悪全くの見当違いっていうのもあるようだ。しかし、そもそも作者に「主人公が扇子を火にくべた理由を説明せよ」とか、説明させないで下さい。自分の小説の説明するのって、こんなに恥ずかしいんですね……!

 疲れた。疲れたよ。
 某有名名作アニメで、犬と共に天に召される心優しい少年のワンシーンを思い浮かべながら、私は机に突っ伏した。全部解答したけど、見直しをする気力はないよ……。
 今なら、お迎えが来ても不思議じゃない。


 結局、チャイムが鳴るまで突っ伏したままだった。


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