03

戦意?ないない。最初っからね。



 クラス分け一覧表の前の黒山の人だかりを見て、戦意というかやる気というか、そういったものが完全に消え失せた。もともと少ないものが、消え失せる所かマイナスまでいった感じ。
 あれはないわ。突入したら、もみくちゃにされて訳が分からないまま外に放り出される。そして私は心底帰宅したくなるだろう。
 何か、キャーなのがギャーなのか判断し辛い、女生徒の絹を引き裂くような悲鳴が聞こえるし。
 断末魔?

 虚空の彼方を見つめて、意識をとばしていると、衝撃が来た。

「おはよー宙!久しぶり!」
「ぐっ……久し、ぶり、早妃」

 ぎゅーっていうより、ギリギリと締め付けるように抱きついてきたのは親友の早妃。
 アバラが何本か逝きそう。っていうか、何か口から出そう。

 背中を叩いてギブアップの意思を示すが、「宙〜!」との呼びかけと共に力が増しただけだった。
 こんな細い体のどこに、これだけの力が。
 死ぬ……。

「早妃、宙が死にかけてる」

 天の声!と共に、早妃を私からひっぺがえそうと動いてくれたのは、これまた親友の綾でした。
 綾はぐっ、と力を入れて引き離そうとしてくれているけれど、「嫌〜っ」と言いながら、それに反抗して早妃が余計にギリギリギリと抱きついている腕に力を込め始めた。
 洒落にならん。ちょ、出る。何かが出る。

「早妃、クラス分け見た?」

 「まだ。」と簡潔な答えだけを返して、ぎゅうぎゅう抱きついている早妃に綾は満足そうな笑みを口に上らせた。あれは何か爆弾を投下するぞ。綾はのたまう。

「クラス、一緒だよ」
「……誰と誰が」
「私と、宙」
「……………………………」

 あ、そうなんだ。やったね!と若干遠退き始めた意識の隅っこで思った私とは対照的に、早妃の腕の力がみるみる緩まっていき、絶望感をあふれさせはじめた。纏っているそれは、私の疲労感ともなんら遜色はない。

「……さ、早妃…大丈夫…?」

 最後には、ぱたりと腕が落ちた。完全に俯いてしまった彼女の表情は、纏めていない長い髪のせいで分からない。な、泣く……?と私は若干慌て始める。綾は全く心配していない。

「馬鹿な…!春休み前、校長室に乗り込んで「来年こそ、1年B組の青海宙と同じクラスにして下さい」って頼み込んだのに……!」
「「そんなことしたのか」」
「したよ!」

 早妃は、う゛〜と唸ると、

「宙の浮気者〜!愛してるからね〜!」

 と叫びながら、クラス分けの人ごみに突っ込んでいった。

「あ〜あ、早妃も同じクラスなのに」

 綾のつぶやきに「えっ!」と返しながら、クラス分け表目指して、人をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し突進していく早妃を見守る。今の彼女は誰も止められない。

「校長への直談判が効いたのかな……」
「……凄いよね」
「嬉しいし、幸せだな〜って思う」

 こみあがるままに笑顔を浮かべつつ、「私も愛してるよ」とつぶやいた。


「宙、私は?」
「勿論、綾もね」


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