01

「お、終わった……」

 窓から日の光が射し込んでいる。最後は太陽との戦いだった。昇ってくるな!という私の切実なる願いにも、無理言うな!現実を見ろ!とばかりに空が白んできていた。春は曙?「をかし」とばかりに、紫雲を愛でる精神なんぞ、今の私には欠片も無い。どう考えたって、髪を振り乱しながら丑の刻参りをする方に近かった。太陽が目にしみて泣けてくる現在の状況では、清少納言の雅やかな文言も裸足で逃げ出す。
 しかし、終わったのだ。色々と。良い意味で。間に合ったとも言える。

「〆切りに間に合った……!」

 そう。私をこれでもかと追いつめていたのは、〆切りである。
 何の?
 小説の。

 私は小説家だ。現在二作品執筆している。ひとつは、いわゆるラノベ。因みにアニメ化していて、現在絶賛放映中。もうひとつは、江戸中期を舞台とした時代小説。因みにTVドラマ化する。来週から絶賛放映予定。
 どちらも本当に有り難い事に売れている。しかし、別々の名前で書いている上、本名でもない。その上、絶対に顔を出さないので性別すら分からない正体不明の作家と言われている。ジャンルも違い、作風も違うので、同一人物だとも知られていない。ラノベの方は女だと噂されているし、時代小説の方は男と噂されているけれど。

 勿論、理由があるから正体を明かしていない。

 睡眠不足でガンガンと痛む頭をカレンダーに向ける。この分だと、熱もあるだろう。

 はぁ……。間に合った……。

 安堵のため息が漏れる。
 カレンダーの今日の日付には、赤いペンで「B〆切り!」と書かれているが、更にその下には遠慮がちにこう書かれている。

「始業式」

 今日は始業式。
 今日から私は高校二年生。

 私は高校生なのだ。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -