Tuiki |
*前回のmemoを先にお読みになると、より分かりやすいと思います。 台詞は鵺に合わせて変えてあります。 随分と未来のお話です。 突然前に現れたその男は、一目で自分に敵意を抱いていると柳に気付かせた。しかし、記憶を探っても今初めて見た顔にそこまでの敵意を向けられる理由が思い当たらない。また、相手が自分に危害を加える雰囲気も無い為、ここはひとつ様子を見るか、と降りたばかりの車に軽く体重を預け、静かに次の言葉を待つ。 短くも長くもない中途半端な時間の後、男の口から出たその名前と続く台詞を耳にした途端、男の言葉を待つ位には自分を捉えていた感興が、一瞬にして凶暴と呼びうるものへと変化したことを柳は自覚した。それは、高校二年の夏以来ずっと変わらず柳が持ち続けている数少ない柳の地雷とも言って良い、ひとりの、たったひとりの存在であった。 「確かにお前はあれのことが好きなのだろうが――あれを女にしたのはこの俺だ」 柳の台詞に絶句する男の脇を通り過ぎる刹那、とどめとばかりに、にやり、と笑いかける。マンションのエントランスをくぐり、エレベーターに乗ってとある階数のボタンを押す頃には、もはや顔を見ることもないであろう男の記憶は柳の中から掻き消えていた。 お粗末さまでした! 鬼平のような格好良さと色気を上手く出せない……。 2011.08.21 21:23 |