我ながら不覚。いくら夜行性の血が通っていようと、まさかこんな所で昼寝してしまうとは。決して、視察任務を放棄したわけではない。サボったわけでもない。それは自分で思っているだけで、リヴァイ兵長にバレてしまえばタダでは済まないんだろう。けれど、リヴァイ兵長の説教だけで事が済んだのなら、どれだけよかったか。目の前の訓練兵であろう男の視線は、間違いなくショックで動けないでいる私の頭に向かっていた。
「・・・見た、な、」
「え?あ、いや、俺はただ、」
こめかみから流れ出ている汗を拭おうともせず、こちらをジッと凝視してくる訓練兵。まずい、まずいまずいまずい、見られた、確実に。目の前の訓練兵に負けず劣らずの勢いで流れ出る冷や汗に、とりあえずどうにかしなければ、と頭をフル回転させた。
「、帽子、返して・・・!」
「ッうわ、」
キッと睨みつけて訓練兵が手にしていた帽子を素早く奪い取って、そのまま無雑作に被った。
「どうして、見たの」
「・・・は、いや、別に見ようとして見たわけじゃ・・・」
訓練兵はまだ状況が把握できていないらしい。それは、いきなり獣の耳を付けた女が寝ていれば、多少混乱はするかもしれないけれど。しかし、どうしたものか。昼寝をしていた上に兵団の上層部しかしらない私の秘密を知られたとなれば、リヴァイ兵長にバレたらタダじゃ済まないに決まってる。私も、この訓練兵も。
「あなた、名前は」
「ジャン・キルシュタインと言います・・・あなたは、調査兵団の方ですか?」
「イリスと言う。ジャン、この事は内密に」
「え?その・・・え?」
「だから、先ほど見たものは忘れなさいと言ってる!」
頭を押さえながら詰めよれば、ジャンはそれに合わせて後退する。鋭い瞳をギラリと睨みつければ、引きつる口元。よりにもよって、こんな軽そうな男にバレてしまうとは。
「もし言ったら・・・」
「あ、わ、分かりました」
分かればよろしい。口元を引きつらせながら目を泳がせる訓練兵から視線をはずして建物の内部に戻った。そういえば、立体機動をつけても取れない帽子が、どうして昼寝途中に取れてしまったのだろうか。
苦労人はいつまで経っても苦労人