今、大事な大事な一歩を

訓練兵団へ足を踏み入れるのは初めてだ。やはり訓練中なのか、入口であるこの場所にまで大きな声が聞こえてくる。対人格闘技、そんなところか。


「お待ちしておりました、リヴァイさん、イリスさんは・・・会うのは初めてでしたね」


優しそうな顔をした男性は、主に座学を担っている教官だと言う。今はキース教官が104期の訓練についているということで、代わりに案内をしてくれるらしい。キース教官のことは、昨日エルヴィン団長から聞いていた。私が調査兵団の元に来る前まで、調査兵団の団長だったのだと。


「・・・イリス」

「え、あ、はい。調査兵団の参謀を務めております、イリスと申します。本日はよろしくお願いします」


リヴァイに視線だけで「挨拶しろ」と促されて、イリスは慌てて自己紹介をした。リヴァイは何度か訪れたことがあるのか、教官と砕けたような雰囲気だ。けれどリヴァイの隣でガチガチに固まっているイリスは、そんな2人の会話も耳に入ってこない程緊張していた。


「イリスさん、どうかしましたか?」

「あぁ、すまないな。こいつは極度の人見知りなんだ」

「だ、大丈夫です」


調査兵団以外の者と喋る機会がないイリスは、致命的なほど人見知りだった。今回エルヴィンがイリスを視察に任命したのは、なんとか解消してもらいたいという意味も込めてのことだ。壁外調査に行くにあたって、結構な頻度で変わる班構成に慣れるのだって、時間がかかってしまうのだから。


「そうですか・・・。では、さっそく案内しましょう」

「あぁ、頼む」


人見知りなことは、イリスも少なからず気にしていた。大体司令班としてエルヴィンについて壁外調査に赴くイリスだが、上官と言うのもあってか、部下からの気遣いも申し訳ない。本来ならば、自分が励ましたりする立場なのだ。年齢など、関係ない。上官である以上、言い訳など通用しない。


「彼らが、104期の訓練生たちです」

「・・・ほう」


下を向いて歩いていたせいで、立ち止まったリヴァイに気付かず背中にぶつかってしまった。慌てて「すみません」と謝ったものの、リヴァイはイリスに一瞬視線をやっただけで、すぐに訓練場へと視線を戻した。それにつられてイリスも訓練兵たちに目を向けてみると、そこには何百だろうか・・・。確かに、同じ年頃の男女がそこにいた。


「、わぁ」

「何だ、イリス。お前ならあの中に入っても違和感ないぞ」

「いや、べつに、入りたいわけじゃないです・・・」


でもやっぱり、もし私があの中に入っていたらどうなっていたのかななんて、想像はしちゃうけど。まぁ、リヴァイ兵長に拾われていなかったら、兵士にさえなっていないんだろうが。


「この中で、調査兵団に入りたいと考えている兵は、何人くらいいるんでしょうか?」

「そうですね、まだはっきりと決まったわけではありませんが・・・」


教官は104期生を一通り眺めたあと、イリスの問いに答えた。


「調査兵団への強い意識を持つエレン・イェーガー。彼と幼馴染の関係であるアルミン・アルレルト。アルレルトはどちらかと言うと座学が長けているのですが、やはり意識は調査兵団へ向いているようです」

「、なるほど」

「今期は豊作だと聞いたが・・・」


イリスが教官の説明を受けて、書類にメモをしている間にリヴァイが教官にまた説明を促す。


「暫定主席は恐らくミカサ・アッカーマンかと。説明しそびれましたが、彼女はエレン・イェーガーと家族同然に暮らしてきたという過去があります。その為彼に執着する場面が多々ありますが、実力は確かです。彼女も調査兵団志願の可能性が高いですよ、今のところは」


次々と教官の口からこぼれ落ちてくる説明を拾いながら、ふと思いだした。ミカサ・アッカーマン。接触をしろとハンジに頼まれてはいるが、教官から聞いたこの説明だけでいいだろうか。それとも、これでは不十分だろうか。接触を図るかどうしたものかと悩んでいる内に、鐘が鳴った。


「おいイリス」

「あ、何ですか?」

「俺は今から資料を見に行く。お前は視察を続けろ」


突然自分の名を呼んできたリヴァイに、考え事をしていたイリスは慌てて返事をした。ボーっとしていたことにリヴァイは気づいているのだろうが、それを指摘しても無駄だと判断したのか、イリスに指示を出すだけだった。


「私、一人でですか?」

「いい加減外にも慣れてもらわないと困るからな。壁外には出れるのに壁内の外は怖いなんて、情けねぇにも程があると思わねぇのか」

「そりゃ・・・。分かりました」

「情報収集も忘れずにな」

「・・・はい」


静かに遠ざかっていく背中に、煢然たる意識に軽く苛まれながらも、イリスの中には寂しさとはまた違う感情が沸きあがっていた。


私にとっては喜ばしい事ではないはずなのに、なぜか心はひどく高揚して


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