早すぎる世界

「団長、今何と・・・」

「イリス、君を参謀に任命する」


参謀とは、確か作戦立案などの役目が主な役職だ。でも今まではそんな役職、調査兵団にはなかった。正確にはエルヴィン団長がその役目を果たしていたんだけれど。でも私にそんな役が勤まるとは思えなかった。正式に調査兵になってまだ3年。何より・・・。


「他の兵士が、納得するとは思えないのですが・・・」

「君以外に適役はいないと判断した」


エルヴィンの鋭い目が真っ直ぐとイリスを射抜く。未だに慣れないその視線に、自然と体が硬くなる。あぁ、昔から嫌いだ、この空気。


「ですが、兵士の中には私を良く思ってない人間もいます」


作戦を考えるということは、その作戦を実行する兵士の命を担うということだ。気に食わない上司の命令など聞きたくない兵士の方が大多数だろう。自分の命を預ける人間が信頼できる人間であってほしいと思うのは、当たり前のことだ。事実、私だってそうだから。


「君はもう少し自信を持っていい。1年で政府を頷かせた実力もあり、頭もいい。私がイリスを調査兵として受け入れたいと思ったのには、理由がある」

「・・・この身体のことですか?結局、この身体は立体機動において何の役にも立ってないではありませんか」


異質であるイリスの身体の特性は、何らかの形で立体機動に活かせるかもしれないと期待された。だが実際反映されたのは柔軟性だけだった。それどころか、普通の人間とは少し違った筋肉の使い方をするイリスには、人間用に作られた立体機動を使いこなすことは容易ではなかった。


「それでも君は、これだけの実力を身に着けた」

「・・・リヴァイ兵長のおかげです」


立体機動だけに関しては呑み込みが遅かったイリスは、ほとんど休みなく1年を過ごした。幸い体力だけはあったため、耐えられないものでは無かったが、リヴァイのスパルタ具合を思いだしては身震いする始末。


「辛かったろうが、全て君の為だ」

「分かってますよ、大丈夫です」


苦笑いをした団長に返事を返すと、また最初と同じ、真剣な表情に戻った。


「さて・・・。君の心臓はどこにある?」


ブルっと喉が震えるのを感じた。エルヴィン団長の何かを見通しているかのような目は、どこか笑っているように見える。あぁ、あるほど。最初から私に拒否権など無かったということか。


「あなたたちに全てを捧げると、誓ったのは私の方でしたね」


危うく誓いを破るところだった。どこかこの生活が当たり前になっていたのだろう。忘れてはいけない、私はいつ殺されてもおかしくない。たとえ壁内にいようと。


「精一杯、役を務めさせていただきます」


本来、公に心臓を捧げるという意味を持つ敬礼は、イリスにとって違う意味の敬礼として用いられていた。それは誰にも言ってないことだけれど、きっとこの人なら分かってるはずだ。どこかでそう確信していた。その力強い敬礼を見た時のエルヴィン団長が少し笑ったのは、見間違いではないだろう。


「そう言ってくれると思ったよ。君も幹部の仲間入りだ」



祝福するべきか、悲嘆するべきか。きっとどちらも不正解。




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