「確かに、一般的な人間の身体じゃあないね」
ここに来て早一週間。少し狭いお部屋で出入り禁止だったけど、リヴァイさんに連れられて久しぶりに外に出た。ただのお散歩だと思ったのに、連れてこられたのはなんだか怪しい匂いのする部屋。促されて中に入ると、息を荒くして目を光らせてる女性が待っていた。
恐怖で立ちすくんでいる私にベタベタと触ってくるこの人は、ハンジと言うらしい。
「そんなことは見て分かる」
「見た目はもちろんね。驚いたのは身体能力だよ!」
リヴァイさんとハンジさんが何かを喋っているけど、あまり意味は理解できない。
さっき、ハンジさんに色々させられたから、その事かもしれない。
「軽く走らせてみたり飛ばせてみたり。優れた平衡感覚や瞬発力は猫そのものだ」
「よく分からないが、猫の見せかけはダテじゃねぇってことか」
「うん。まぁ流石に本物の猫には劣るんだろうけど、人間としてはありえない数値が出てる」
「他に特徴は?」
「なぜか猫としての見た目が反映されてるのは上半身だけみたい。牙や、耳だけだけど」
「爪は」
「爪は人間のものだよ。リヴァイに襲いかかったときはただ伸びすぎてただけでしょ」
2人が私には分からない話を淡々とするものだから、なんだか眠くなってきた。
近くにあったソファに身を任せてウトウトしていると少し振り返ったリヴァイさんと目が合ったけれど、何も言われなかった。
「あらら、寝ちゃったね。疲れたのかな」
「久しぶりに部屋から出て来たからな。無理もないだろ」
「はは、リヴァイ。随分と優しいけど、イリスに情でも湧いたの?」
「バカ言え・・・エルヴィンが、アイツを兵士にしようとしてる」
「あぁ、それで色々気にかけてるの。でも周りの兵士にどう説明するつもり?」
「耳程度ならなんとか隠せるだろ」
「まぁそうかもしれないけど。彼女、まだ10歳くらいだよ」
10歳。それを聞いたリヴァイは顔をしかめる。子どもだとは分かっていたけど、まだ訓練兵に志願できる歳にも満たなかったとは。
「訓練兵団にも行かせるつもりはないらしい」
「上にはどう説明するんだろ」
「さぁな。また俺の時みたいに手を加えるんじゃないか」
リヴァイもエルヴィンの元に下るという形で調査兵団に入ったのだから、確かに特例であればあり得ない話ではない。
「でも、10歳で訓練なんて異例すぎてどうもね」
「俺たちにはどうも出来ん。壁が壊された今、可能性のある貴重な人材確保を優先してる」
「それもそうだね。まぁ、いきなり壁外だなんて団長も言わないだろうけどさ」
浮かない顔をしてため息をついたリヴァイは、手にしていたイリスの検査の結果であろう資料を机の上に雑に置いて席を立った。
「報告書はお前に任せる」
「ひどいな、私の仕事を増やすなんて」
「元はお前の仕事だろうが」
「はいはい、分かりましたよ。新兵士長様」
「何か言ったか?」
「いいえなーんにも」
そのまま扉へ向かうことはせず、ソファでぐっすりと眠りについているイリスの元に歩いていき、優しく肩を叩く。
その様はなんだか普段じゃありえない光景だからおかしくて、ハンジが小さく笑うと聞こえていたようで舌打ちをされた。
「ん・・・あれ、リヴァイさん・・・?」
「おい、戻るぞ」
「お話し、終わったの?」
「あぁ」
調査兵団の誰かのお下がりだろうか。フード着きのパーカーを深くかぶってリヴァイの服の裾を掴むイリスはかなりリヴァイに懐いてしまってるらしい。あんな目つきが悪いのに、どんな手を使ったのやら。
廊下ですれ違う人たちは皆リヴァイさんを見ると大きな声を出して挨拶する。あの敬礼、かっこいいな。
同時に降りかかる私への視線は痛いけれど、少しの間だから我慢しろ、とリヴァイさんに言われた。
「おい、イリス。お前は調査兵団をどう思う」
「えっと、すごくカッコいい!」
笑顔で答えてみせると、リヴァイさんは何か言いたそうな顔をしたけど「そうか」とだけ言ってそれ以上は話さなかった。
何も知らなかった無知な私