断る理由など、私にはないから

「誰かの落し物にしては随分と大きいな」

「バカ言え。お前の目にはコイツが人間以外の何物かに見えるか?」

「冗談だ」


腕を掴んでくる人とは違って、目の前にいるおじさんはとても優しそうだ。


「君、お名前は?」

「・・・イリス」

「そうか。イリス、いい名前だ」


名前は、この怖いお兄さんにつけてもらったのだけど。
褒められたのは初めてで、嬉しくってつい俯いてしまう。


「で?リヴァイ、連れ帰るってことは何か事情があるんだろう?」

「あぁ」


俯いていたところを頭を掴まれて上げさせられた。その反動でフードも脱げてしまって、他の人と違う、大きな耳が揺れた。


「・・・これは」

「ただの人間じゃない」

「違法実験の犠牲者、と言うところか」


実験。その一言に反応してしまった。癖っていうのは、中々抜けきらないものだ。


「猫、なの」

「猫・・・?」

「うん。私、失敗したんだって」

「・・・」

「でも、死にたくないから・・・その、」


めちゃくちゃな文章を一生懸命繋ぐ。2人の視線が痛くて、なんだか鼻の奥がツン、としてきた。


「えっと、」

「イリス、もういい」


先ほどリヴァイと呼ばれた人は、私の隣を離れておじさんの所まで歩いて行った。目から何かがこぼれるのを見られたくなくて、大きいフードを深くかぶる。こんな耳、なかったらいいのに。


「いきなりハンジに任せるのも、得策とは言えないな」

「当たり前だ。アイツには特徴だけを教えて調べさせればいい」


どうやらお話しが終わったらしく、同時に顔を向けられて驚いた。
今まで座っていたおじさんが立って、こちらにまで歩いてきて膝をついて視線を合わせてくれた。


「君にはしばらくここに居てもらうことになった。それでも、構わないかい?」


おかしな質問だと、思った。今まで住む場所の選択肢なんてなかったから。
きっと無条件じゃない。だけど・・・。


「ここに、いてもいいの?」

「あぁ。いいよ」

「あ・・・りがとう」

「決まりだ。私はエルヴィン。よろしく、イリス」

「よろしく・・・おねがいします」







きっと今日という日を忘れることなんてない


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