何もない私に何かをくれた人

「おい、お前。これはお前がしたのか?」

「・・・」

「答えろ、ガキ」

「だって、殺されたくないんだもん」


一言で言えば、異常。

年端も行かないであろう子供の足元に落ちている物体・・・否、元は人間であったのだろう肉塊。原型をほとんど留めていないそれの欠片を、子供は握っている。子供の全身を覆う薄汚いマントからチラリと見えた真っ赤な口元。どれもが異常だ。


「あなたも、私を捕まえる?」

「あ?何言ってやがる・・・」


面倒なことに頭を突っ込みたくなくて、さっさと帰ろうかと調査兵団のマントを羽織なおして後ろを向いた。

ほんの一瞬だった。

ただならぬ殺気を感じて、咄嗟に右に避ける。
目の端に映ったのは人間の者とは思えないほど鋭利で長い爪で、明らかに首を狙ったそれにリヴァイは舌打ちをした。だから、面倒事は嫌なんだ。


「・・・おい、くそガキ」

「ッ・・・」


爪の持ち主の腕を捉えて素早く壁に押し付ける。
ハラリととれた子供のフード。恐怖からか、揺れている薄い青色の瞳と目が合った。


「・・・お前」

「なんで、捕まえるの」


弱々しく呟く少女の声に応える余裕など、今のリヴァイは持ち合わせていなかった。
フードの下から現れた白い髪の毛の中で少女に合わせて動く獣の耳を見て、驚かない人間などいるものか。


「ねぇ、私を捕まえるの?」


カタカタと震える少女を見て、先ほどまでの面倒だという感情はどこかへ行ってしまった。アイツに見せれば、少しは何か分かるかもしれない。


「あぁ、捕まえる」

「ッ・・・!」

「勘違いするな。俺はお前みたいなガキで遊ぶ趣味はねぇ」


分からない。怪訝そうにリヴァイを見つめてくる少女のフードを被り直させて、二の腕を掴んで歩き出した。


「お前、名はあるのか」

「・・・ない、と思う」

「そうか・・・。お前は、イリスだ」

「イリス?」

「そうだ。今日からそれがお前の名だ」

「私の、名前。イリス・・・」






それは命の次にできた、失いたくないもの


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