頂き物 | ナノ


※天音様サイトの作品のIFです。逆トリップ物になります。



ロゼッタ宅にユミルとクリスタがトリップしてきてから、早二週間。女子三人暮らしも慣れてきた頃の話。

ベッドの上で寝転びながら横を向いた藍織は、そのまま停止。数分経った後、引き攣った苦笑いを顔に貼り付けて、漸く口を開いた。

「……流石に男の子はアウトだと思うの」

弟と同じ位の年齢かなぁ、でも日本人って幼く見えるって言うしなぁ。

全力で現実逃避に走ったロゼッタは、いつぞやのユミルとクリスタの様に寝室――それもベッドの上に現れた少年を放置して、居候達の眠る隣の部屋に移動したのであった。





ロゼッタに叩き起こされたユミルは、突如としてロゼッタのベッド上に現れた少年を食卓に座らせると、はあ、と溜め息を吐いた。彼女の隣に腰掛けるクリスタは、困ったように柔らかく眉を潜めている。

「鬱陶しい奴が来た……」
「ユミル、嫌そうな顔しないの!」
「何だこれどうなってるんだよ、っつーかクリスタとユミルは何でそんなに馴染んでんだ!?」

朝から賑やかだねぇ。

虚ろな目で呟いたロゼッタは、ぽかりと軽くユミルからの拳骨を頭に喰らった。軽めな辺り、ユミルも致し方ない現実逃避だと認めてはいるようだ。

朝起きたら同じベッドの上に見知らぬ男の子が居ました。……なんてハプニング、ユミルとクリスタという前例が無ければ軽くトラウマである。

「私のベッドってどうなってるんだろう……」
「アイリ……」

溜め息すら吐けずに呟くと、慰めるようにクリスタが肩を叩いてきた。

「取り敢えず落ち着こうよ。私、皆の分のお茶淹れて来るね。アイリ、紅茶使って良い?」
「……大丈夫。ありがとう、クリスタ」
「流石私のクリスタ。気が利くな」

実は誰よりもショックの少なかったらしいクリスタが立ち上がる。居候も二週間以上となると、最早勝手知ったる他人の家。テキパキと動き出した彼女に迷いは無かった。

「ちょっと待て! 俺に説明してくれ」
「あー忘れてたわ。ロゼッタ、は使いもんにならねぇから……仕方ねぇな」

一方、忘れ去られていた少年は、漸くユミルから一応の説明を聞き始める。
戦力外通告をされたロゼッタと言えば、ひたすら現実逃避に走るのみであった。それがバレて再びユミルから殴られるのは、説明が終わった十数分後のこと。どうやら、新入り少年はロゼッタに比べよっぽど飲み込みが速いようだった。





「えぇと……説明に与りましたロゼッタです……?」
「おいお前大丈夫か」
「ごめんまだ混乱してる真っ最中」

変な畏まり方をしたロゼッタの自己紹介に、ユミルが呆れた様に突っ込みを入れる。苦笑いで返したロゼッタは、それでも多少はマシかなぁ、と呟いた。

「うん、多分大丈夫。えぇと、改めまして。ロゼッタです。確か貴方はジャン君……だよね」
「おう。成り行き上こんなことになったが、よろしく頼む」

思ったよりも大分まともな返答が返ってきて、ロゼッタは瞳を瞬かせた。そして、取り敢えず前情報を与えてきたユミルの言葉は鵜呑みにすまいと決める。

何だ、普通に礼儀正しい子じゃない。

「ユミル、ロゼッタに何て言ったの?」
「同期に自慢ばっかりしてる馬鹿」
「おいユミル、てめぇ……」

あっさりとロゼッタに伝えた、よろしくない部分のみをピックアップした他己紹介を吐いたユミルに、偏見に満ちた先入観を向けられたジャンが食ってかかる。そんな二人に対し、もう、と怒ったような呆れたような顔をするクリスタは可愛かった、とロゼッタは後に笑った。多少は余裕が戻ってきたようである。

「大丈夫だよ、ジャン君。ユミルの言ってたこと忘れることにしたから」
「……そうしてくれ。後、名前」
「ん?」
「呼び捨てで良いぜ。二人のことも呼び捨てだろ」
「ああ、そうだね。じゃあ私も呼び捨てで」

ジャン、ね。
そう小さく呟いてロゼッタは顔を綻ばせた。心臓には悪いけれど、居候が増えるのは悪くない。

――少なくとも、私にとっては。

微かに感じた寂寥感に蓋をして、ロゼッタは食卓の椅子から立ち上がった。

「ちょっと待っててね、ジャン。朝ご飯にしよう」

それを聞いたクリスタが食パンをトースターに入れたのを見て、ジャンは「慣れてんな……」と呆れたように呟いた。





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