05


足が、お腹が痛い。痛いなんてものじゃない。熱くて、痛くて、どうしようもなくて。けれどそれでも泣き言を言えない。だって彼が目の前にいるんだもの。


「おい、なまえ。何、してんだよ」

「はは、死のうと、したんだよ」

「ふざけんなよ、何だよ、死のうとしたって」


多分、もうすぐ死ぬ。死ぬのに、不思議と怖くはなかった。だって、私の手を彼の暖かい手が包んでくれてる。何年も待ち焦がれたそれを、もっと感じていたい。


「ジャンが、私を見てくれてる」

「・・・、」

「嬉しい。ジャン、もう、一生私のこと見てくれないと思った」

「なんで、だよ」

「だって、ジャンは私のこと嫌いじゃない」

「・・・、嫌いなんかじゃねぇよ」

「う、そだ。いつも私を嫌そうに見てた」

「違う。違うんだ」


霞んでいく視界の中で、彼が震えているのが見える。頬に落ちた雫はきっと彼から流れ出たものだ。拭ってあげたいのに、もう腕も上がらない。ねぇジャン、どうして、泣いているの。


「すまねぇ、すまねぇ、なまえ、謝って済むことじゃないってのは分かってる。俺のせいで、お前の人生を滅茶苦茶にしたんだ」

ジャン、何を言ってるの?意味が分からないよ。

「俺がお前をすぐ許してれば、お前はこうならずに済んだ・・・。あの時、俺、馬鹿みてぇに意地張ってて」

分からない。あの時ジャンが私を許していたらどうなっていたかなんて、私には想像もつかない。

「お前は、こんなに優しいんだ。友達だって、もっと出来たはずだ」

友達が出来ないのは、ジャンのせいじゃない。この目のせいだよ。けれど、ジャンが綺麗だと言ってくれたから、嫌いになんてなれなかった。

「お前が嫌がらせを受けていることを知ってても、俺、何もできなくて」

それは私がそうなるように振舞っただけだよ。

「今更お前と話すのが恥ずかしいだなんて、そんな理由で俺、お前を傷つけてたんだ・・・」

あぁ、そうだったのか。私は、もっと素直になってよかったのかな?ねぇ、ジャン。

「私は、どうやって生きていたらよかったんだろう」

「なまえ、」

「分からないよ。分からない。私、普通に生きていたかっただけなのに。普通の女の子みたいに、友達と遊んだり、恋したり、したかっただけなのに。どうしてなのかな、どこから間違ってたのかな」

いつの間にか流れ出ていた暖かい雫が、冷たくなっていく頬を濡らす。止まらない。

「私は、人間だよ、皆と同じ、人間なのにッ」

「ごめん、ごめん、なまえ、」

「ごめんなさい、私、最後まで、人を傷つけてばっかりで・・・。本当は、皆と同じように、」

「・・・、」


あぁ、もう声も出ない。でも最後に、あなたを見ることが出来てよかった。

目が見えなくなったと思ったら、昔のあなたが見える。覚えてるよ、覚えてた。その日からずっと、私はあなたが大好きで。

私にはあなたしかいないけど、あなたにはたくさん友達がいるじゃない。なのに、どうして、


どうしてそんなに哀しい顔をするの?