04


ひたすらに、住宅街の上を走る。走って、飛ぶ。その繰り返しをもう数分は行っている。立ち止まったらだめだ、ここ辺りは巨人が多いから。


「もう、ガスが少ない・・・」


立体機動の扱いには割と自信があった。トップである彼には敵わないけれど、少しでも彼に近づきたいと思って練習したかいがあった。けれど、さすがにこう、長時間も飛んでいればそれはいつかはガスなんて切れてしまうわけで。

あぁもうどうして、こんなことになってしまったのだろう。


「もう、嫌になっちゃったなぁ」

いっそのこと・・・。


ひたすらに動かしていた足をふと止める。10mほど先に、巨人がいる。真っ直ぐとこちらに向かってる。まさかこんなことになるとは思わなかったよ。超大型巨人が今日出現するなんて考えてもいなかったけど、不思議と動揺はしなかった。決められた作戦を機械的に実行していたけど、班の仲間はもう誰一人いない。

巨人を使って自害だなんて、どれだけ間抜けなんだ。結局私は人類の進撃の糧となることも出来ずに死んでいくちっぽけな存在だった。それだけの話。

最期に、一目でもいい。あなたに会いたかった。そう思っていたけれど、ごめんね、もう飛べない。空になったボンベをチラリと見る。


「・・・あ、」


大きな手のひらに掴まれて足が宙に浮く変な感覚。容赦なく握られる胴体がミシミシと嫌な音を立てていく。痛い、痛い、痛いよ。

足元を見やると、巨人の大きな口が見えた。あぁ、足から食べられるのか。痛いだろうなぁ。どこかボンヤリと考えながら、この後の痛みを想像する。こんな一瞬の痛みよりも、今までに感じてきた心に痛みの方が痛いだろうから、きっと我慢できる。大丈夫。


「・・・ジャン、」


無意識で出て来た彼の名に、自分でも驚いた。それと同時に浮かび上がってくる今までの記憶。彼と出会う前からただ拒絶されるだけの人生だった。育ててもらった祖母でさえ、その目は化け物を見るような目で。

近所の子にはもちろんいじめを受けていた。けれど不幸だとは思ったことなんてなかった。それが、当たり前だったから。だから逆にジャンの暖かい視線に驚いて、涙を流したのは何年前のことだったか。


「ごめ、なさい」


私では彼の友人の代わりにはなれないし、償えるとは思わなかった。彼にとって私がどうでもいい存在だとは理解していた。だけど彼の傍を離れることが出来なかったのは、私が彼の傍にいたかったからだ。


「結果がこれだよ、」


グシャリ。



私を拒絶するものなんか要らない